ウェルネスコラム「がんの遺伝子治療とは? 基本の仕組みをご紹介」

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がんの遺伝子治療とは? 基本の仕組みをご紹介

先進的ながん治療のひとつとして、遺伝子治療を聞いたことがある人もいるかと思います。

がんの遺伝子治療は、今から20年も前に「21世紀の医療技術」として大きな期待をかけられていました。その技術は、現在はどうなっているのでしょうか?

がんの遺伝子治療について、基本の仕組みや現状をご紹介したいと思います。

がんの遺伝子治療の試みは1940年代にさかのぼる

人の細胞は本来、周囲の状況に応じて細胞分裂して増殖したり、増殖をストップしたりします。たとえば、ケガをすれば傷をふさぐために細胞を増殖し、ふさぎ終われば増殖をストップします。

ところが、これら正常細胞の機能を制御する遺伝子に傷がつくと、何もないのに増殖してしまったり、増殖をストップせずに無限増殖してしまったりします。

これが異常な細胞の塊、すなわち「がん」なのです。

がんは遺伝子の異常が原因になるので、故障した遺伝子に直接働きかける治療法は、かなり昔から模索されていました。

1940年代、動物を使った実験が始まり、同時期にがんとは無関係なウイルスに感染したがん患者のがん細胞が縮小するなどの現象が報告されるようになりました。ウイルスは生物の細胞内に侵入して遺伝子の中に自分の遺伝子を入れて増殖するので、がん細胞の増殖を抑制することもあるのです。

こうして、遺伝子治療によるがん治療が模索されるようになりました。

ちなみに、遺伝子治療は先天的な遺伝子異常による疾患に対しても有効であると考えられ、がんに限らず多くの疾患でも治療法が生み出されるようになりました。

遺伝子治療でがんになった!? 遺伝子治療の仕組みとは

世界各国で遺伝子治療の研究や臨床試験が進みましたが、2002年、X連鎖重症複合免疫不全症という病気で遺伝子治療を受けていたフランスの患者2名が、白血病を発症するというニュースが世界中を駆け巡りました。

これは、遺伝子治療に使われていたレトロウイルスベクターが、目的の細胞以外の正常な細胞に侵入してしまい、がん細胞を生み出す遺伝子を活性化させてしまったことが原因でした。

遺伝子治療の仕組みは、レトロウイルスという、細胞の遺伝子に侵入して自分の遺伝子を入れて増殖するウイルスから、病原となる遺伝子を取り除いて、治療用の遺伝子を組み込んだ「レトロウイルスベクター」を使用して行います。

レトロウイルスベクターが正常な遺伝子の運び屋となって、異常のある遺伝子を治療するのです。

しかし、このレトロウイルスは白血病ウイルスが由来となっており、白血病の原因となる遺伝子を活性化させる副作用があったのです。

この副作用が判明してから、レトロウイルスベクターを使った遺伝子治療は大きく停滞してしまいました。

ほかにもウイルスを使った治療法として、腫瘍溶解性ウイルスによるがん治療も研究されています。これは、がん細胞のみに感染して細胞死させてしまうウイルスを使ったウイルス療法で、まだ臨床試験も少なく、ヨーロッパでは初めてタリモジェン・ラヘルパレプベクという治療法がIII相臨床試験まで進んでいます。

腫瘍溶解性ウイルスは画期的な抗がん剤となる可能性があり、現在も利用法が模索されています。

研究は続き、ついにアメリカで初の遺伝子治療による抗がん剤が認可

ウイルスを使った遺伝子治療は停滞してしまいましたが、研究は現在も続けられています。

また、同じ遺伝子に働きかける治療法として、がん細胞の異常な遺伝子を正常に戻す、という方向性ではなく、がん細胞を攻撃する免疫細胞を強化する、という方向で大きく進展を見せています。

2017年8月、アメリカで「キムリア」という抗がん剤が治療薬として承認されました。

スイスの大手製薬企業ノバルティスが開発したこの薬は、従来の薬とはまったく性質が異なるものです。

特筆すべきはその製造法です。原料となるのは、患者自身の血液。採取された血液は加工施設に運ばれ、がん細胞を攻撃するT細胞を抽出し、増殖させるとともに攻撃力がアップするように遺伝子を加工して、再び患者に投与するのです。

「キムリア」の成績は目覚ましく、臨床試験では急性リンパ性白血病の患者の83%が、投与して3カ月以内にがん細胞が消失したということです。

ただし、「キムリア」はオーダーメイドで製造する薬のため、1回の治療あたりの治療費が47万5000ドル(約5200万円)と高額になっており、一般人にはなかなか手が出せない治療薬になりそうです。

遺伝子治療もより安全を増している

免疫細胞の遺伝子に働きかけてがんを攻撃させて死滅させる免疫療法は、「キムリア」の登場によってかなり進展したと言えるでしょう。

また日本でも同様に、免疫機能を向上させる抗がん剤として、免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ・商品名オプジーボ)が2014年に保険適用されました。悪性黒色腫、後に非小細胞肺がんと腎細胞がんにも使用されています。

免疫チェックポイント阻害剤は分子標的薬のひとつで、がんが免疫から逃れるために生み出すチェックポイント・シグナルPD-1を抑制する薬剤です。

この薬剤を投与すると、がんにだまされて攻撃をやめてしまうリンパ球のT細胞(ヘルパーT細胞やキラーT細胞など)を、正常に機能させることができるため、免疫機能を向上させてがんを治療することができます。免疫細胞をだまそうとする性質があるのは悪性黒色腫や肺がんで、これらのがんに効果があります。

一方で、がん細胞に直接働きかけ、がん抑制遺伝子を細胞に注入してがん細胞の「プログラム細胞死(アポトーシス)機能」を呼び覚まし、がんを死滅へと導く治療法も、研究が進んでいます。

遺伝子の運び屋となるレトロウイルスベクターの安全性が向上し、以前のように白血病を併発する副作用があるベクターを使用する必要がなくなりました。

がんの遺伝子治療の注意点とこれから

標準治療ではないため治療を実施している病院はなく、がん治療を専門としたクリニックなどの医療機関で自由診療となるがんの遺伝子治療。

気を付けたいのは、「末期がんでも治癒の可能性がある」と宣伝しているクリニックが多いのですが、まだ治療法や有効性が完全には確立したものではないこと。そして診療費が高額になる治療法が多く、保険適用外のため高額医療費制度による高額医療払い戻し請求はできないことは知っておくべきでしょう。

もし民間保険会社のがん保険に入っているなら、自由診療も対象となっているか調べておきましょう。対象となっているなら、高額な医療費も保険でまかなうことができるでしょう。

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