コラム「視聴者を迷わせる報道姿勢は問題だらけ」

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医者の罪と罰5 マスコミの罪と罰 いきすぎたがん報道
視聴者を迷わせる報道姿勢は問題だらけ

間違ったがん情報を平気で垂れ流しているマスコミ

テレビや週刊誌などのマスメディアには、売上のため、もしくは注目を集めるために、事実の曲解や誤解に甘い体質があるのではないでしょうか。
がん報道では、きちんと事実を把握して、あるいは理解して情報を流しているのでしょうか。

医者の罪と罰

医者の罪と罰

一般の人たちのがんに対する知識は、ほとんどがマスメディアやインターネット記事によってつくられるといっても過言ではないでしょう。報道の質が、国民のがんに対する認識に影響します。だから気をつけてほしいのです。

私はあまり見ませんが、テレビでも、明らかな間違いを平気で報道している番組が少なくないようです。

有名人のがんについて大きな報道があると、いろんな医者が出てきて解説をします。

テレビ局は「専門家の解説」というお墨つきがあるからいいと思っているのでしょうが、今まで述べてきたように、医者の言うことには嘘が混じっています。

がん専門医の意見は、そもそも標準治療の域を出ていません。したがって番組制作側の知識程度や意図、料理のしかたしだいで、いくらでも間違った情報を世の中に発信することができるのです。

有名人の闘病というドラマには、多くの視聴者が引きつけられ、むさぼるようにその情報に耳を傾けます。そこでいいかげんな情報を流したら、間違った知識を視聴者に刷り込み、植えつけることになってしまいます。

無神経極まりない有名人のがん闘病報道

論点はやや変わりますが、有名人ががんを公表した後のメディアの報道合戦にも、非常にいやらしいものを感じます。

ここ1年に限っても、多くの有名人のがん報道に目がとまりましたが、この原稿を書いている最中には、歌舞伎のE夫人であるMさんの乳がん闘病で報道が過熱しました。

その報道姿勢に、知人の一人は「Eさんが語っていないがんのステージまで詮索していたが、あれはいきすぎではないのか」と憤慨していました。Eさん夫妻には、小さいお子さんもいます。周囲の耳や口もあるでしょう。そうした負の影響を考えると、メディアの人権侵害は明らかです。

また、キャスターや専門医たちがコメントしていた内容にも、疑問に思える点が数数あったと聞いています。

「進行がんの治療は難しいけれども、抗がん剤治療は日進月歩だからがんばってほしい」とか、「吐き気などの副作用を抑えるよい薬が出てきた」という話。

抗がん剤そのものの作用は、60年前からほとんど何も変わっていません。また、表面的な副作用を抑えたとしても、抗がん剤自体の性質は何も変わっていません。

私は、抗がん剤が役に立つことを否定していませんし、患者さんに抗がん剤の拒否を勧めることもありません。しかし、「日進月歩」といった抽象的な言い方で、抗がん剤への幻想を植えつけると、将来、視聴者ががんをわずらったときの判断に影響するのではないでしょうか。

抗がん剤の限界を隠し、期待だけを抱かせる報道は罪深い。それなら、初めから報道やコメントをしないほうがましだと思います。

Mさんが乳がんであることから、乳がんで保険適用のハーセプチンを持ち出し、「がん細胞だけを殺す薬も出てきている」とコメントした医師さえいたそうです。

これも嘘のかたまりで、がん細胞だけを殺す薬など、いまだにひとつも開発されていません。

しかも、ハーセプチンなどの分子標的薬は、ごく一部のがんにしか保険適用になりません。保険診療を前提とするなら、ほとんどの人が使えない薬の話をしてもしかたないでしょう。

もちろん、乳がんなら条件しだいでハーセプチンも使えるわけですが、報道の段階で、Mさんがハーセプチンを使っているのか、この薬に合っているがんなのかといったことはわからなかったはずです。そんな浅いコメントをして、傷つく人がいないと思っているなら、無神経の極みというものです。

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