ウェルネスコラム「放置療法の拠り所「がんもどき」など存在しない」

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医師の罪と罰1 机上の空論 放置療法
放置療法の拠り所「がんもどき」など存在しない

性質を変えていくのががんの特徴

がん放置療法は、「いわゆるがんには、本当のがんとがんもどきの二つがある」という考えの上に成り立っています。いわく、「本当のがんなら、発見したときすでに転移しているので、どんな治療をしても助からない」「がんもどきは進行しないので治療する必要がない」いずれにしても、治療をすると、かえって苦痛を味わったり命を縮めたりするだけで、デメリットのほうが多いというのです。

医者の罪と罰

医者の罪と罰

では、川島なお美さんのケースは本当のがんで、がんもどきだったら助かったということなのでしょうか。

そんなバカな話はありません。「がんもどき」というのは、あくまでもその医師だけの仮説なのです。

がん放置理論には、大きな嘘が隠されています。

生物学的に、その医師のいう「放置しても進行しないがんもどき」という、都合のよい細胞は人体に存在しえません。仮にがんもどきと彼の呼ぶようなものがあったとしても、それが転移するがんにならないという解釈は、明らかに間違いです。

なぜなら、がん細胞は、遺伝子の損傷(変異)の繰り返しで生まれる最終産物だからです。

がんのできる部位によっても違いはありますが、大腸がんの場合は、前がん状態のポリープの細胞ができると、そこにさらに遺伝子の損傷が重なって、段階的にがん化するケースがほとんどです。大腸がんは、大腸ポリープを切除すれば95%の確率で予防できます。

胃でもがん化のプロセスは同じです。胃の場合は、萎縮性胃炎が進行すると胃がんになります。いきなり良性の細胞ががん化するのではなく、必ず「腸上皮化生」という変化を経てがん化するのです。

腸上皮化生というのは、胃の細胞が腸の細胞になり変わることです。細胞内の遺伝子が炎症によって傷つき、修復されないまま変異を繰り返すことで、まったく別の細胞(腸の細胞)になります。それが、さらに変異を繰り返してがん化するのです。だから専門家の間では、腸上皮化生を「前がん状態」と呼びます。胃の前がん状態である腸上皮化生は、通常、治らないといわれますが、私は過去に千人単位で治しています。

食道がんでも、最近は「バレット腺がん」というタイプが増えてきました。欧米の食道がんの大半はバレット腺がんですが、これが日本でも増えつつあるのです。

これの前段階のバレット食道は、食道の細胞が胃の細胞になり変わる変異で、主に逆流性食道炎から発生します。これも、この時点ではまだ良性なのですが、放置するとがん化するのです。バレット食道には、ボノプラザン(商品名タケキャブ)という薬が有効です。

このように、いずれの消化器がんも前がん状態からがん化します。そして、局所(一部の組織)から発生して、ほかの組織に浸潤すると進行がんになります。

私は生涯内視鏡件数が5万以上ですが、いつまでも浸潤も転移もしない「がんもどき」と呼べるようながんは見たことがありません。むしろ、後述しますが、良性病変があっという間に悪性化して浸潤する症例を見たことは一度や二度ではありません。

いったんがん化した細胞も、そのままずっと同じ性質を保つわけではありません。

がん細胞になってからのほうが、遺伝子の損傷は重なりやすくなり、どんどん性質を変えて凶暴化していくものなのです。

体のどこであれ、正常な細胞がいつがん化するかはわかりません。がん細胞の元の姿が例外なく正常な細胞であるということは、〝がんもどき的〟なふるまいをしているおとなしいがん細胞だって、いつ性質を変えて暴れ出すかわからないということです。

「がんもどき」が「がん」になった?

私のクリニックに来る患者様でも、良性ポリープや早期がんを放置した結果、進行がんになってしまった人はたくさんいます。やはり、早期発見・早期治療こそが、がんに克つ近道なのです。

私自身の痛恨事ですが、つい最近もこういうケースがあったので、皆さんに打ち明けましょう。

2015年の秋、ある女性の患者様が、お姉さんといっしょにいらっしゃいました。検査すると大腸ポリープで、内視鏡で切除できると診断しました。

一般に、大腸がんは、がんの中では進行が遅いほうだとされています。良性の大腸ポリープが大腸がんになるまでには、通常3〜4年以上かかります。数カ月でがんになるということは、非常に稀(まれ)です。

私のクリニックでは最近、常に大腸ポリープ切除の予定が埋まっていて、2~3カ月先までは予約が取れません。そこで、すぐに予約を入れ、「半年以内ならがんにならないから大丈夫でしょう」と患者様に言いました。

ところが、これがレアなケースにあたってしまいました。

3カ月後に診ると、ポリープの形が崩れて、明らかに悪性の変化が疑われました。

生検するとがん化してしまっていたのです。近傍のリンパ節への転移の可能性があるステージⅢも疑われ、内視鏡では手に負えません。私は、急いで手術してくれる病院を紹介しました。手術時の所見では、リンパ節転移がひとつありました。

ポリープが急速にがん化したこのケースは、「がんもどき理論」では説明できないといわざるをえません。がんは2種類しかないというのは、素人にはわかりやすいかもしれませんが、そんな単純なものではありません。

大腸ポリープ自体は、いわゆる良性腫瘍で、がんではありません。しかし、大腸がんの95%はポリープから生じます。すべてのポリープが必ずがんになるわけでもありませんが、この女性患者様の場合は、進行が尋常でなく速かったのです。

がんは、ひとつの病気とは思えないほど千差万別で、人と同じように個性があります。そのことを、あらためて思い知らされました。

ポリープを見つけたら、がんにならないうちに切除してしまうに限るのです。患者様の大腸ポリープががんもどきだなどということは、臨床医として認めるわけにはいきません。

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