ウェルネスコラム「がんの放置を勧めて治療のチャンスを奪う大罪」

ウェルネスコラム

書籍連載

医師の罪と罰1 机上の空論 放置療法
がんの放置を勧めて治療のチャンスを奪う大罪

「治療は無意味」という極めて特異な主張

皆さんは、「がんと診断されても治療せず、放置しなさい」と勧める医者の存在を知っているでしょうか。

がんを放置してもよいとする、彼の説はこうです。

医者の罪と罰

医者の罪と罰

  • がんと診断される病気には2種類あり、転移するがんと、転移しないがんは「別物」である。
  • 転移するがんは、見つかったときにはすでに転移している。したがって、治療をしても助からない。早期発見・早期治療に意味はない。
  • 一方の転移しないがんは、ずっと発生した場所にとどまり続ける。生命維持に欠かせない臓器を冒すまでは、命を奪うことはない。したがって、治療の必要はない。
  • 苦しいがん治療を受けると、どちらのがんの場合でも生活の質を落とすだけになる。むしろ放置したほうがいい。

こうした持論を展開しているのが、有名なある医師です。彼は、世間でそこそこ人気があるようで、私のクリニックにも、以前は信奉者だったという患者様が来ることがあります。彼のセカンドオピニオンを30分3万円で受け、最後に「どうしたらいいですか?」と尋ねると、「俺は知らない」と答えられたので呆れたと、ある患者様が言っておられました。

皆さんは、この「がん放置理論」をどう思うでしょうか。

がん放置理論に傾倒していた女優の川島なお美さん

女優の川島なお美さんががんで亡くなったのは、記憶に新しいところです。彼女の胆管がんは、2013年の8月に人間ドックで発見されました。

胆管というのは、消化液のひとつである胆汁の通り道です。がんができた部位が肝臓の中にあると治療しにくく、消化器系のがんの中では、予後も悪いほうです。なお美さんのがんは、肝臓内にできていました。

治療自体の難しさとは別に、なお美さんは舞台に立てなくなる手術や抗がん剤治療に消極的だったようです。そこで、がんとわかってから、何人もの医師にセカンドオピニオンを求めています。

そして、その2番目として、がんが見つかった翌月に前述の医師を訪れています。

彼女とがん放置理論とのかかわりを、遺著『カーテンコール』(夫・鎧塚俊彦氏との共著/新潮社)から考えてみましょう。彼女が亡くなった後、その医師も雑誌の取材などに答えていますが、それは参考にとどめます。ここで大事なのは、患者様自身がどう感じていたのかです。

著書を読んでその医師に傾倒していたなお美さんは、彼に「放置しておけば大丈夫」という答えを期待していたようです。

しかし、意に反して、こんなことを言われました。

「胆管がんだとしたら厄介だね。2、3年は元気でいられるけど、ほうっておいたらいずれ黄疸症状が出て肝機能不全になる。手術しても生存率は悪く、死んじゃうよ」

その医師の言動を、なお美さん自身がどう感じたかは、著書に書かれています。ですから、私はあえてそこまでは触れません。しかし、このくだりを読んで、放置療法を標榜する医師のいいかげんさに呆れ果てました。

しかも彼は、自身の意見として、胆管がんの治療には適していないラジオ波焼灼術(肝臓内に電極を入れてがんを焼く治療法)を提案しました。その結果、希望を持ってラジオ波の専門医を受診したなお美さんは、「治療不適」という結論に一時打ちのめされています。

最終的に手術を受ける決断をした彼女は、2014年1月に腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を受けます。

しかし、術後半年で再発し、悲しい結末を迎えてしまいました。彼女が亡くなったのは、2015年の9月のことでした。

天国からの訴え「がんを放置しないで」

この経過について、わかる範囲で医師としての見解を述べてみます。

なお美さんの胆管がんは、発見の時点では大きさも1.7㎝。ですから、「早期がん」というべきものでした。予後のよくない胆管がんとはいえ、発見時にはステージⅡで、すぐに手術をしていれば亡くならずにすんだかもしれません。

そこに免疫の力で体内のがん細胞を一掃するANK免疫細胞療法を加えていたら、完治も夢ではなかったはずです。

なお美さんが、亡くなる直前まで、プロとして舞台を務め、生き抜かれたことは称賛に値します。しかし、いったんがんの「放置」を検討したことが、結果的に命取りになったのではないかと思われます。

「がんは放置しても大丈夫」という医者がいれば、それを信じて早期治療を軽視してしまう患者様が出てもおかしくありません。その例が、なお美さんなのです。

彼女は、その医師の前に会った医師の最初のセカンドオピニオンで、すでに「即手術」を勧められています。ところが、がん放置理論に傾倒していたために、「慎重に治療法を探そう」と考え、結果として半年近く放置してしまったようです。

いたずらに時間を費やしてしまったことが、貴重な女優人生を縮める結果になったと思われ、残念でなりません。

がんのたどる道はさまざまなので、あくまで結果論になりますが、なお美さんは「遅すぎた手術」といわれながらも、術後1年8カ月近く生き続けました。ということは、もっと早く手術していれば、治せたのではないか。少なくとも、もっと長く生きられたはずだという思いにかられるのです。

医師が「手術が死期を早めた」と述べていることには、強い違和感を覚えます。

なお美さんは、遺著で、がん患者にこう呼びかけています。

――決して「放置」などしないでください。まだやるべきことは残っています。

――ともかく放置だけはしないでください。

この言葉の重みを、受け止めなければいけないと思います。

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