ウェルネスコラム「三大療法以外にも、がんの治療法はいろいろある」

ウェルネスコラム

書籍連載

【第2章】主治医の知識と経験の不足が、がん患者の寿命を縮める
三大療法以外にも、がんの治療法はいろいろある

進行がんの治療は、全身療法であることが大前提

非常に細かく分類することができるがんの種類や患者様の体の状態ごとに、受ける治療は変わりますが、局所のがんか飛び散るがんかによって、使える治療はある程度決まってきます。

保険診療+先端医療  完治をめざす「がん治療設計」

保険診療+先端医療
完治をめざす「がん治療設計」

例えば患者様に体力があっても、転移があれば手術で取り除くことはできません。手術をすると、かえって予後が悪いためです。また、「手術をしたけれど、手の施しようがないからすぐ閉じた」というケースも実際によくあります。これも、開腹してみたら体全体に浸潤している進行がんだったから切除ができなかったということです。

この場合、局所療法ではがんを取り除くことはできず、全身療法を採用しなければなりません。

では、現在実施されているがん治療法を局所療法と全身療法に分けてみましょう。

局所療法の仲間―手術、放射線治療

  • ・開腹・開胸などをして腫瘍を切除する一般的な「手術」
  • ・内視鏡手術、腹腔鏡手術、さらに内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」などが利用されるロボット手術
  • ・X線、γ線、電子線のほか、粒子線と呼ばれる重粒子線、陽子線を体内の腫瘍に照射してがん細胞を殺す「放射線治療」
  • ・治療技術としては、脳腫瘍治療用のガンマナイフに代表される「ピンポイント照射」(定位放射線治療)
  • ・腫瘍の形に合わせて1本ずつビームの強さを変えられる「IMRT」(強度変調放射線治療)
  • ・IMRTを応用した治療機器として、画像追跡で内臓の動きによるズレを補正しながら照射する「サイバーナイフ」、同様のシステムで複数の腫瘍にも照射できる「トモセラピー」などがあります。

全身療法の仲間―薬物療法、免疫細胞療法

  • 「殺細胞剤」による化学療法...現在日本で最も使われている薬物による治療。
  • 「分子標的薬」...現在、最も注目されているがん治療薬で、欧米では新しいタイプの抗がん剤として殺細胞剤に取って代わる存在となりつつあります。様々なタイプがありますが、最も代表的な作用はがんの増殖を抑えることです。
  • 「ホルモン療法剤」... がんを増殖させてしまうホルモンを抑えるもので、乳がん手術後の抗エストロゲン剤、子宮がんの増殖を抑える黄体ホルモン剤、前立腺がん患者の男性ホルモンを抑えるLH -RHアゴニストなどがあります。
  • 「免疫賦活剤」... 患者様の免疫力を高める目的で投与されるもので、キノコ由来のレンチナンや、溶血連鎖球菌由来のピシバニールなどがあります。丸山ワクチンや、免疫刺激物質サイトカインの注射も、免疫賦活剤による薬物療法に含まれます。
  • 「免疫細胞療法」... 患者様の免疫を高めることで、全身に散らばったがん細胞を叩く療法です。NK細胞を使ったANK免疫細胞療法や、NK細胞の代わりに他の免疫細胞を用いるもの(T細胞系)、免疫細胞への刺激物を模索中のもの(ペプチドワクチンなど)があります。

以上のように、がん治療薬には主に、がん細胞を積極的に殺しに行くタイプ(殺細胞剤)、がんの増殖を抑えようとするタイプ(分子標的薬やホルモン療法剤)、免疫力をサポートするタイプ(免疫賦活剤)があります。

ただし、免疫賦活剤は、がんを攻撃することよりも、三大療法で低下する免疫をサポートし、生活の質(QOL:クオリティ・オブ・ライフ)を落とさないために用いられるケースがほとんどです。作用が弱い免疫賦活剤は、がんを叩くためにはほとんど役に立たず、免疫細胞療法と同じようには考えられません。

がん治療の選択肢を狭める「混合診療規制」

これらの治療法はすべて、今現在、がん治療のメニューとして提供されています。では、この中から希望する治療をすべて、一つの病院で受けることは可能でしょうか。答えは「NO」です。

では、手術や抗がん剤治療を受ける保険診療の病院で、すべての治療法からあなたに最適の治療メニューを提案してもらえるでしょうか。その答えも「NO」です。

がんと診断された後、ほとんどの人は保険診療の病院で三大療法を柱とした標準治療を始めます。保険診療の病院では、保険適用になっていない薬を使ったり、自由診療の治療法を勧められたりすることは、まずありません。

我が国の医療制度では、「混合診療規制」というルールがあるからです。

多くの国民は、このルールを知りません。普段からそんな規制があることを意識して生活してはいないし、病院でもほとんど説明されないのですから当然です。そこで、自分や身内の人ががんになり、なんとか助かる方法はないかといろいろ治療法を探してみて、初めて知ることになる人が少なくないのです。

混合診療規制というのは、保険診療を行なう病院と、それ以外の病院をはっきり線引きするルールです。具体的には、「一つの医療機関」が、「同じ患者様」の「同じ病気」に対して、保険診療と自由診療の両方を実施してはいけないという決まりです。国の行政指導で決まっているのです。

保険診療は、公のお金を使って運営される医療サービスです。具体的には、患者様が加入している国民健康保険(または社会保険)から、原則7割の治療費が支払われます。そのため患者様は、保険診療である限り、どこの医療機関でも、同じ診療を同じ負担で受けることができます。国民に平等な医療を行きわたらせるためです。

国民の共有財産を使うので、保険を使ってもよい治療や薬が決まっています(それを「保険が適用される」と言います)。そして、医師の診療報酬も薬価も決められており、「有効だから」という理由で医師が勝手に様々な治療を取り入れたり、いろいろな薬を使ったりすることはできません。

同じ病院が、保険適用外の自由診療を、保険診療と併用しても、保険が使えない部分だけ患者様の自己負担にすれば済むのではないかーーそう思う方もいるでしょうが、それは「混合診療」として禁止されています。平等な医療を保障している国民皆保険制度の主旨に反するから、というのが理由です。

確実に治る治療法があり、それが保険適用になっている病気なら、保険診療は患者様にとって最高の診療形態だと言えるでしょう。しかし、標準治療で治らない病気にかかった場合、制約ずくめの保険診療が必ずしもベストな医療を提供してくれるとは限りません。国民皆保険は素晴らしい制度ですが、残念ながら、進行がんの患者様に対しては、不十分な治療しか提供されていません。保険診療が自由診療より優れているというイメージは、がん治療においては幻想だと言わざるを得ないのです。

進行がん完治のカギとなる「保険診療」と「自由診療」の範囲とは

がん治療のうち、保険診療の病院で提供されている範囲はどこまででしょうか。
保険診療に含まれる範囲と、自由診療になる範囲を、手術、放射線療法、薬物療法別に大まかに解説します。

手術―先端手術は一部が保険適用

がんを切除するために行なわれる手術は、基本的に大部分が保険適用になっています。

保険診療では、一般的な開腹・開胸手術はもちろん、内視鏡手術などの多くも保険適用になっていると理解してよいでしょう。

例えば、当院でも胃・大腸などの内視鏡検査を実施していますが、定期検診で胃カメラの必要性や便潜血が指摘された場合には保険適用となります。その上で早期のがんが見つかり、内視鏡手術で切除する場合も保険適用です。保険診療の病院では原則3割負担で検査・治療を受けることができます。

ただし、腹腔鏡手術やロボット手術は、一部のがんや一定の範囲しか保険適用になっていません。手術による傷口を最小限にとどめられるなどの理由で選択される手術方法の多くが、保険適用外なのです。

2014年から15年にかけて、有名ながん拠点病院で、保険適用外の腹腔鏡手術を、「保険適用」扱いで実施していたことが発覚しました。

例えば同じ肝臓の腹腔鏡手術でも、切除する範囲によって保険適用外のケースがあるのです。その適用範囲について病院側にどういう認識や落ち度があったのかはともかく、こういうケースは、健康保険における診療報酬の不正請求になってしまいます。

放射線療法―粒子線治療は保険適用外

放射線療法については、一般的に行なわれているX線、γ線、電子線治療はほぼ保険適用で、ごく一部の人が受ける粒子線治療は保険適用外というのが大まかな線引きです。

技術的にはかなり高度な放射線治療と言えるピンポイント照射のガンマナイフや、IMRTの治療装置であるサイバーナイフやトモセラピーも保険適用になっています。

ただし、重粒子線治療、陽子線治療は、先進医療という制度に該当する場合も含めて、患者様の全額自己負担です。

新しい放射線治療は、装置が極めて高額で全国的にも数が少ないことや、患者様の病態が治療の適応にならないケースも多いことなどから、手術や抗がん剤に比べて実施される数は少ないのが現状です。

薬物療法―最先端の分子標的薬のほとんどが保険適用外

我が国の保険診療で、薬物療法の主役は昔も今も「殺細胞剤」です。

ほとんどのがんに使われ、使用量が最も多いこの殺細胞剤をはじめとして、乳がんや前立腺がんなどのホルモン療法剤、免疫賦活剤など、昔から使われてきた薬はたいてい保険適用になっています。

保険適用か適用外かで今いちばん議論の的になっているのは、新しいタイプの抗がん剤である分子標的薬です。実情を言えば、ごく一部の限られた部位のがんにしか保険適用となっていません。

下の表に、保険診療で使える主な分子標的薬の名前と、保険適用になっているがんの類を挙げておきます。念のために「主な」と言っておきますが、これでほとんど網羅しているはずです。こうして簡単に列挙できるほど、分子標的薬の保険適用範囲は狭いということです。

ここに出てきたがんの種類は、一般の人にはなじみが薄いものが多く、「それほど使い勝手のいい薬ではない」と感じるかもしれません。ですが、本来の薬剤設計から言えば、分子標的薬は殺細胞剤と同じように、ほとんどすべてのがんが適応となる薬なのです。使えないのは保険適用になっていないためです。要するに、保険診療の病院を受診している限り、分子標的薬は「薬の性質上使えるはずの人も使えない」ということになっているのです。

分子標的薬の保険適用の図

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