ウェルネスコラム「ピロリ菌除菌の嘘」

ウェルネスコラム

書籍連載

第2章 がん予防の嘘
ピロリ菌除菌の嘘

ピロリ菌を除菌すると食道がんリスクが高まる

このところ、ピロリ菌の除菌がブームになっています。ピロリ菌とは、正式名「ヘリコバクター・ピロリ」と呼ばれる細菌のことです。ヘリコとは「らせん」とか「旋回」を意味する言葉で、ヘリコプターの「ヘリコ」と同じ意味です。一方の端にべん毛と呼ばれるヒゲのようなものが付いていて、それを回転させながら移動します。

医者の嘘 医者は自分の都合でウソをつく

医者の嘘
医者は自分の都合でウソをつく

バクターはバクテリアのことで「細菌」を意味します。そしてピロリは、胃の出口の部分(幽門)を示す言葉「ピロルス」からきています。

ピロリ菌の名前の由来はともかく、ある学者が5000億円の予算をかければ、日本から胃がんを撲滅できると公言しました。その方法がピロリ菌の除菌です。

この学者は「胃がんの原因はピロリ菌であるから、ピロリ菌を除菌すれば胃がんはなくなる」と主張したのです。結果、ピロリ菌の除菌は、保険診療の対象となりました。

ピロリ菌の除菌はテレビ番組でも紹介され、一気に広がりました。私のクリニックにも、ピロリ菌を除菌したいという患者様が押し寄せてきます。中には 70代の患者様もいるほどです。

ピロリ菌を除菌しても胃がんになる

しかし、ピロリ菌を除菌すれば、胃がんにならないというのは嘘です。

その証拠に、ピロリ菌に感染していなくても、胃がんになるケースは少なからずあります。これは、私自身が胃がんの患者を診断していますから、間違いありません。

ということは、ピロリ菌を除菌しても胃がんを100%回避することはできないのです。ピロリ菌はあくまで胃がんが発生するひとつの要因にすぎません。

胃がんが発生するメカニズムはほぼ解明されていますので、ここで簡単に紹介しましょう。

胃がんは胃の腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)という状態を放置すると、発生することが知られています。

腸上皮化生とは、胃の粘膜が萎縮して、腸の細胞に置き換えられることをいいます。

以前は、胃潰瘍や胃のポリープが胃がんに変化すると考えられていました。しかし、現在では、腸上皮化生が胃がんに変化することがわかっているのです。

すべてのがんは、慢性的な炎症が発端となります。胃がんの場合は、慢性胃炎が発端です。 20歳を過ぎると老化が始まるといわれますが、 20代の若い人でも胃の萎縮が認められることがあります。私は、毎年、胃の内視鏡検査を受けている人の中で腸上皮化生を放置した人から胃がんを見つけることが少なくありません。

よって、がん治療の専門家は、腸上皮化生のことを前がん状態と呼びます。

ですから、ピロリ菌を除菌しても、腸上皮化生があれば胃がんになるリスクはあります。では、腸上皮化生はなぜ起こるのでしょうか。

胃がんに至るまでの変化を整理すると次のようになります。

胃がん発生のメカニズム

胃炎→萎縮性胃炎→腸上皮化生→異型性変化→胃がん

つまり、胃炎が萎縮性胃炎になって、腸上皮化生を発生させるのです。では、胃炎や萎縮性胃炎はなぜ起こるのでしょうか。その原因は4つ知られています。

胃炎や萎縮性胃炎の原因

  • ピロリ菌
  • 加齢
  • 食事
  • ストレス
  • もちろんピロリ菌も原因のひとつではありますが、加齢や食事、ストレスも胃炎や萎縮性胃炎の原因となるのです。

    激辛ブームが胃がんの原因を作っている

    最近、胃の調子が悪いといって、診察に来る若い人が増えています。内視鏡で胃の中を見てみると、多くの場合萎縮しています。人間は歳(とし)を取ると、徐々に胃の粘膜は萎縮していきますが、年齢相応の萎縮を超えて極端に萎縮しているケースが多いのです。

    そういう人に食生活を聞いてみると、多くは辛いものが好きでとうがらしをたくさん食べています。

    中には「健康にいいと思って食べていた」という人も少なくありません。確かに、とうがらしは胃を刺激して食欲を増進させるので、元気になった気分になるかもしれません。しかし、とうがらしが健康にいいなどというのは、とんでもない勘違いなのです。

    とうがらしは、胃の粘膜をどんどん萎縮させているのです。ですから、私自身はほとんどとうがらしを使いませんし、キムチも食べません。それほど、とうがらしは胃に良くないのです。

    一方で、高齢者に胃がんが多いのは、加齢が原因だと考えられています。ですから、歳を取ってからピロリ菌を除菌しても意味がないでしょう。

    ピロリ菌除菌者の3割に逆流性食道炎が発生

    でも、みなさんはこう考えるかもしれません。

    「100%ではないにしても、胃がんのリスクを少しでも減らすことができるのならピロリ菌を除菌したほうがいいのではないか」

    ところが、ピロリ菌を除菌することで、新たな問題が発生することが知られています。それは、逆流性食道炎です。逆流性食道炎は、胃液や消化途中の食べ物が食道に逆流して、そこにとどまるために炎症を起こしてしまうものです。ピロリ菌感染者の多い日本人は、欧米人に比べ逆流性食道炎が少ないことが知られていました。ところが、ピロリ菌を除菌すると、およそ3割の人に、逆流性食道炎が発生します。これは非常に高い確率です。

    なぜ、逆流性食道炎が多発するのでしょうか? 考えてみれば当たり前のことなのです。

    ピロリ菌は胃の中で生きているわけですが、これは非常に珍しいことです。そもそも胃の中には胃酸があって、ほとんどのものを溶かしてしまいます。肉でも魚でも何でも溶かしてしまうのですから、それだけ胃酸は強力なのです。

    仮に指を胃酸の中に長時間浸(つ)けていたら、簡単に溶けてしまうでしょう。菌も普通は、胃酸で死んでしまいます。

    ところが、ピロリ菌は、強い酸性の胃液の中で生き残っています。そのために、アンモニアを発生しています。アンモニアはアルカリ性ですから、胃酸を中和する効果があるのです。

    ピロリ菌を除菌してしまうと、アンモニアがなくなるため、胃の中は一気に行きすぎた酸性の状態になってしまいます。

    特に高齢化すると、胃と食道の間の括約筋がたるんでくるため、胃酸が容易に食道の中に逆流します。そのとき、酸性が強すぎれば、逆流性食道炎になりやすくなるのです。

    欧米では、逆流性食道炎から引き起こされる「バレット食道がん」が増えています。日本でも増えつつあります。

    胃がんを予防するためにピロリ菌を除菌して、食道がんになるのではたまったものではありません。

    ですから私は、 50歳を過ぎた患者様がピロリ菌を除菌したいと希望したとき、以上のようなリスクを伝えることにしています。「それでも除菌を希望するなら自己責任で......」というと、大抵は除菌しません。

    やみくもなピロリ菌の国費除菌は無駄遣いにほかならない

    このように、ピロリ菌は4つある胃がんの原因のひとつにすぎないにもかかわらず、保険診療で除菌ができます。胃がんの症状がなくても、胃炎があってピロリ菌が見つかれば、誰でも除菌ができるのです。

    20歳を過ぎれば胃炎は誰でも持っているといっても過言ではありません。 20歳以上の人の胃を内視鏡で検査すれば、程度の差はあれ誰にでも萎縮性胃炎は見つかります。つまり、ピロリ菌が見つかれば誰でも保険診療で除菌ができることになります。

    やみくもに国費で除菌するなど、医療費の無駄遣いにほかなりません。ピロリ菌除菌の推進は、製薬会社を喜ばせるだけとしか思えないのです。

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