コラム「粘膜の炎症は、あらゆるがんの"予兆"」

コラム

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【第3章】がんの予兆をつかむことが、予防の第一歩
粘膜の炎症は、あらゆるがんの"予兆"

食事内容やストレスが腸に炎症を起こす

胃がんを取り上げて説明してきましたが、私が専門とする消化器がんには、近年、罹患数、死亡数ともに増えている大腸がんもあります。端的に言えば、大腸がんでも、ほとんど胃がんと同じことが言えます。

一生がんにならない体をつくる

一生がんにならない体をつくる

まず、大腸がんも、胃がんと同じように内視鏡検査で早期発見に努め、良性ポリープ(球状やキノコ状の突起物)や早期がんの段階で切除できれば、生存率は95%に達します。大腸がんの場合、粘膜内にとどまっているステージ0から筋肉層にとどまっているステージ1のごく小さいがんまでなら、内視鏡で切除することができます。抗がん剤治療も免疫細胞療法もいりません。

そして、がん化と悪性化のプロセスも同じなのではないかと私は考えています。

大腸がんは、肉を多食し脂肪もふんだんに摂取する「食生活の欧米化」と同時に増加が指摘されるようになりました。伝統的な日本食に比べて、現代の食事は食物繊維(野菜)が少なく、悪玉菌を増やして腸内の環境を悪化させていると言われます。つまり、腸壁の粘膜に負担をかけているわけです。

腸内環境が悪化して感染症を起こしたりストレスがかかったりすると、腸壁にも炎症が起こります。ストレスで下痢をするケースなど、多くの人が思い当たるのではないでしょうか。そして、潰瘍性大腸炎などの一部の大腸炎では、やはり粘膜が萎縮して薄くなることが確認されています。そうした粘膜の炎症、老化が大腸がんの素地になっていることは十分に考えられます。

大腸がんの9割が良性ポリープの悪性化

大腸がんも、胃がんと同じように内視鏡検査での早期発見・早期治療が有効です。大腸内視鏡検査でポリープが見つかると、多くの人は驚き、怖く感じるかもしれません。しかし、ポリープそのものはがんとは限りません。その段階で見つかれば、むしろ幸いと考えるべきです。

腫瘍以外の腸内のポリープには、潰瘍性大腸炎や感染症などのあとにできる炎症性ポリープと、老化に伴う過形成性ポリープがあります。過形成性ポリープは突起ではなく、平たんな外見をしています。ある程度の年齢になると多くの人に見られるようになる点は、胃粘膜の萎縮にも似ています。

内視鏡でポリープが見つかると、そのまま切除して生体検査を行います。腫瘍性ポリープも、定期的に検査を受けていれば、がんになる以前の良性のものがほとんどです。生検でがんと分かれば、進行度に応じて治療を受けることになります。

気をつけなければならないのは、良性のポリープであっても放っておくとがん化する可能性があることです。ポリープは、だいたい1センチくらいになると悪性腫瘍(がん)であることが疑われます。当然、早期がんの段階で発見、治療できれば有利です。

大腸がんの9割は、良性ポリープが悪性化したものだと言われています。そこには、やはり、細胞の変異を伴う「粘膜の炎症→前がん状態(良性ポリープ)→早期がん→進行がん」というプロセスがあると考えるのが自然です。進行がんになる前に治療することが望まれます。

さらによいのは、がんそのものを予防することです。可能なら、粘膜の炎症や老化にブレーキをかけ、がんにならない体をつくることを心がけるべきでしょう。私が考えるその方法については後述します。

食道炎が食道がんのきっかけになる

今度は、胃の上にある消化管について考えていきましょう。食道がんも、胃がんや大腸がんほどではありませんが、罹患数の多いがんです。

実は、逆流性食道炎も食道がんのリスク要因の一つです。近年の逆流性食道炎の増加に伴って増えていると見られるのが、バレット食道という病変が元になって起こるタイプの食道がんです。

食道の内壁は、皮膚とよく似た扁平(へんぺい)上皮という粘膜で覆われています。ところが、逆流性食道炎が続くと、食道に上がってくる胃酸の刺激で粘膜に炎症が起こります。そして、扁平上皮の粘膜が、胃の粘膜に似た円柱上皮というものに変性してしまいます。まさに、胃粘膜の腸上皮化生と同様のことが食道でも起こるわけです。

粘膜の性質が変わったこの状態がバレット食道で、やはり食道がんが発生する素地になります。バレット食道がんは白人に多く、欧米では、食道がんの約半数がバレット食道から発生するとされています。

もちろん食道がんも、内視鏡で検査し早期がんで見つかれば簡単に切除することができます。胃がんや大腸がんと同様、早期発見・早期治療が有効ながんの一つです。

すべてのがんは粘膜の炎症から始まる

私の専門である消化器について、炎症とがんの関係を見てきました。がんが炎症から生じることを理解していただけたでしょうか。

それは胃腸や食道の話であって、肺がんや肝臓がんは違うのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、老化の正体である炎症がベースにあって、そこに細胞の変異が生じるというがんの成り立ちは、ほかの臓器でもみな同じだと思われます。

よく知られているのは、肝臓がんの発端が炎症、すなわち「肝炎」にあることです。肝臓がんの素地となる炎症の原因としては、アルコールのほか、ウイルス感染が挙げられます。B型肝炎、C型肝炎などがあるウイルス性の肝炎は、やがて肝臓の組織が線維化して肝硬変を引き起こし、そこから肝細胞がんに発展します。

炎症を基盤にしてがんが発生すると考えると、喫煙が肺がんの発生率を上げる理由も簡単に説明できます。

男性では、現在、肺がんが死因の第1位になっています。そして、タバコと肺がんの関係は昔から言われていますが、考えてみればその理由は単純です。タバコの煙に含まれている発がん物質や活性酸素が、肺胞などの粘膜に慢性の炎症を起こし、その部位の細胞が性質を変えて、やがて肺がんに変異するのだと考えられます。

喫煙は食道がんや喉頭がんのリスクも高める習慣ですが、これも、煙が食道やのどを刺激し、炎症を起こすからだと説明できるでしょう。

がんは、ある日突然起こる病気ではない

膵臓(すいぞう)がんや胆管がんなども、標準治療での5年生存率が非常に低いがんですが、ある日突然がんになって死を招くのではなく、それ以前からの炎症的な変化が発がんの土壌になっていると考えるべきです。

膵臓には、慢性膵炎(すいえん)という病気があります。膵臓は膵液(すいえき)という消化液を十二指腸に分泌していると同時に、膵島(すいとう)からインスリンやグルカゴンを分泌して血糖値の調節に重要な役割を果たしている臓器です。

ところが、ここにがんが生じると、その予後は極めて厳しいものになります。早期発見が難しいのが一つの大きな理由です。その背景として、やはり慢性の炎症があると考えられます。慢性膵炎になっても、痛みを感じない人がたくさんいるのです。

炎症が起こっているところには、すでに述べたように必ず顆粒球という免疫細胞が集まり、活性酸素を放出します。この活性酸素によって細胞が破壊されると、DNAが変異しながら分裂を繰り返し、あるとき性質を変えて前がん状態になり、やがて発がんするというのが、炎症部位からがんが生じるメカニズムです。

であれば、炎症の存在に気がつくかどうか以前に、全身の炎症を鎮めることができないでしょうか。それが、有効な発がん防止策となり、がん予防につながるはずです。

がん予防の鍵を握る粘膜の老化予防

細胞ががん化するプロセスには、三段階説または二段階説があります。それによると、細胞は、DNAに傷がつくイニシエーション、その細胞を増やすプロモーション、細胞をがん化させ、進行を早めるプログレッションという段階を追ってがん化します。

最初に細胞が性質を変えるきっかけをつくるものはイニシエーター、その細胞を増やしたり、悪性化させたりするものがプロモーターとかプログレッサーと呼ばれます。

タバコの煙に含まれるタールや、古い建物に使われているアスベストなどの発がん物質、さらに活性酸素や放射線などは、細胞に傷をつけるイニシエーターとなり得ます。また、脂っこいものの多食や塩分の摂りすぎなどは、それ自体が毒でなくともプロモーター、プログレッサーになると言われています。

つまり、がん化を促し発がんを促進する要素としては、環境のなかにも生活習慣にもさまざまなものがあり、一つの要素だけで発がんするわけではないことが分かります。

だからこそ、がん予防には「これ」という決め手はなく、一つずつ生活習慣を見直すことが大事だと言われるのです。そして、発がん物質をいくら遠ざけたつもりでいても、何が複合して発がんにつながるかは分かりません。それゆえ検査が大切なのです。

しかし、ここまで考察してきて分かったことがあるはずです。その一つは、気づかない場合も多い炎症を鎮めることが、がんの予防に直結しているということです。

では、がんの素地になるその炎症は、体内のどのような場所に起こっているでしょうか。

がんが粘膜内にとどまっている間は早期がんなのです。ということは、がんの発端になる炎症は、粘膜に起こるのです。私が、腸上皮化生の患者さんに胃がん予防の目的で粘膜保護剤を処方していることは述べました。

粘膜の老化防止が、がん予防に直結するのです。日常生活のなかで粘膜によいものを取り入れて、がん予防につなげることはできないでしょうか。

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