コラム「年齢が高まるにつれて、がん発症のリスクも高まる」

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【第2章】予防をしなければ、2人に1人の確率でがん患者
年齢が高まるにつれて、がん発症のリスクも高まる

NK細胞の活性化で、がんは予防できる

はっきりと言えることは、確率的には2人に1人ががんになる可能性があるということです。ですから、がんになる前から、予防と早期発見に努めることが必要なのです。がん死亡率を世代ごとに見ると、男女ともに、だいたい60歳代から増加して、高齢になるほど高くなります。性別で見ると、特に60歳代以降で、男性が女性より明らかに高いのが特徴です。

一生がんにならない体をつくる

一生がんにならない体をつくる

その理由には、もちろん組織の老化もあります。組織が老化して炎症が起こりやすくなれば、そこにがんが発症しやすくなるからです。

次に、年齢とともに免疫力が低下することが挙げられます。体内に生じたがんを殺してくれるのは、第1章でも説明したNK細胞という免疫細胞ですが、年齢とともにこの細胞の活動力(NK活性)は低下していきます。これについては多くの学者の研究がありますが、NK活性は、おおむねグラフのように、20歳頃をピークに、加齢とともに低下していくのです。

また、NK細胞の活性は、年齢という長いスパンだけでなく、日々大きく変動しており、その平均的なレベルがむしろ大事です。NK活性は強いストレスが続いても低下しますし、悪い生活習慣(喫煙、飲酒、質の悪い食事、睡眠や運動不足など)によっても低下します。血液の状態によっても活性は変わり、いわゆるドロドロ状態の血液はNK活性を下げる要因になるようです。動脈硬化が進んでいるようなら、当然、血液もドロドロですからNK細胞の足を引っ張ることになります。

これが、年齢が高くなるほどがんの発症リスクが高まる決定的な要因です。しかし、年齢を重ねても、老化を遅らせ、免疫力を高める方法はあります。

繰り返しになりますが、がんが発症するメカニズムを知って、その予防に努めていれば、がんになる確率は間違いなく減らすことができるのです。

NK(ナチュラルキラー)活性の年齢による変化の図

がんになるのは「運命」ではない

病気が起こってくる根源には、遺伝的な素因(もって生まれた体質)と、環境的な素因(生活習慣などの後天的な要因)があります。

糖尿病や高血圧などをはじめ、多くの病気に遺伝的素因がありますが、環境や生き方との間でうまくバランスが保てているうちは発症しません。がんも同じで、がんになりやすい遺伝的素因をもっていても、発がんしない人はいくらでもいるのです。

私は、どちらかというと、後天的な環境や生活習慣を重視する立場です。そのバックボーンには、自分の力で運命を切り開いてきた自負があります。ですから、がんになるのは運命だという考え方にはくみしません。

宿命と運命とは、似ているけれども違うものです。宿命はもって生まれたものですが、運命は自分の生き方しだいで変えられるものです。言ってみれば、宿命は遺伝的素因、運命は自分が習慣などを通じてつくり出すものです。

がんの場合も、いわゆるがん家系に生まれたというのは宿命ですが、それだけで発がんするわけでないことは前述したとおりです。発がんしないように予防に努めれば、その努力のほうが勝るはずなのです。そして、万一発がんしたとしても、絶対に治してやるという意志をもつことが、よい運命を切り開くのだと思います。

財政破綻を避けるためにも、がんを減らそう

高齢化が進むなか、国全体で毎年1兆円の医療費が増加しています。この流れに歯止めをかけるためにも、がんになる人を減らすことには大きな意味があります。がんの治療は、ほかの病気に比べて費用が高額で、しかも長期にわたるからです。

私は10年ほど前に、日本医科大学の後輩に頼んで、大腸がんで亡くなった人の平均的な生存日数(診断を受けてから亡くなるまで)と、平均的な医療費(健康保険組合から支払われる分も含む)を調べてもらったことがあります。そして、大腸がんで亡くなった人たちは平均で2年ぐらい生存し、約2000万円の医療費がかかっていることを教えてもらいました。大まかに言うと、1年間の医療費が1000万円かかるという計算になります。

治療費の水準は、10年後の現在でもそれほど変わらないと思います。そこで、がんで亡くなる患者様1人当たりに年間1000万円の医療費がかかっているとしてみましょう。今日本では、年間に約125万人が亡くなるなか、がんで亡くなる人がそのうち約3割(平成24年には36万人)います。

そうすると、大まかな計算ですが、毎年約3兆5000億円が、がんで亡くなる人たちの治療に費やされているとも解釈できます。がんで亡くなる人をゼロにできるなら、年間3兆5000億円をほかの費用に回せるのです。国債の発行をその分減らしてもよいと思います。

そして、日本のがん医療費は年間約8兆円ですから、がんになる人がゼロにできるなら、毎年8兆円を国の将来のために使うこともできます。それこそ、がんになる人が大幅に減るだけでも、医療費は毎年1兆円ずつ増えるどころではなく、減らすことだってできることが分かります。

これはもちろん、がんの治療をするなという意味ではありません。もしもがんになる人がいない世の中がつくれたら、患者様や家族が高額の治療費に悩まされることもなく、国の予算が莫大な医療費負担に圧迫される度合いも減るという話です。

医療費の削減は、本来なら厚労省や財務省の責任ではありません。恵まれた医療保険制度の恩恵に浴しながら、不必要に医療費を使い続けている国民全体の責任なのです。

考えてみてください。残念ながら今は東日本大震災と原発事故で手負いの状態ではありますが、これほど住みやすい素晴らしい国が、ほかに世界のどこにあるでしょうか。

私たちのような国は、ほかのどこにもないのです。2025年、あるいはその前に日本という国を破綻させないためには、国民一人ひとり、そして医療従事者の一人ひとりが、ムダな医療をやめようと決意しなければいけません。

今こそ、心ある国民一人ひとりが、がんにならない体をつくり、医療費を削減するために立ち上がるべきなのです。

高齢者の一番の役割は健康でいること

国の将来を憂えるあまり厳しいことを言ってきましたが、私は基本的に「長生きすることは善だ」と思っています。そして、人口構成の高齢化という現象も、負の側面だけから捉えるべきではないと考えています。

現在の少子高齢化というのは、出生数が減るなかで、この世に生を受けたほとんどの人が長生きできるようになったために起こっている現象です。少子化の行く末は気になりますが、現在の社会構成員一人ひとりが長生きできることは、とてもよいことではありませんか。

しかも、前期高齢者といえば、最近「アクティブシニア」ともてはやされる活動的な世代でもあります。そのままみんな元気でいれば、世の中に負担をかけることはありません。健康を保ち元気でいることこそが、高齢者の最大の社会貢献なのです。

かく言う私自身も、今年の1月に67歳になった、まさに団塊世代の一人です。そして、このように現役で働き続けています。

医師も、私のような開業医なら経営者、自営業者ですから、70歳、80歳になって現役を続けている人は珍しくありません。私も人一倍、自分自身の肉体年齢を若く保つことに努め、あと30年、現役を続けて医療に貢献しようと目標を立てています。

この30年というのは根拠のない数字ではなく、昨年、自分で測定してみた結果、私の骨年齢は20歳代、皮膚年齢と血管年齢は共に30歳代と診断できたからです。その結果から、自分の肉体年齢は36歳だと考えることにし、現在、一般的な定年とされている65歳まで、30年働こうと考えたのです。その頃元気なら聖路加国際病院名誉院長の日野原重明先生のようにあと20年働こうと思うかもしれません。日野原先生は、100歳を過ぎた現在も3年先まで予定がいっぱいだそうです。

元気で働いていれば、息子をはじめとする後続世代の負担を、その分減らすことができます。それだけでなく、統計的な生産年齢人口に属さなくても、社会に経済的価値を生んでいくことだってできるわけです。

もちろん、お金を稼ぐかどうかは大きな問題ではありません。高齢者には社会に還元できる経験も知恵もあります。長生きすることに罪悪感を覚えることなどもってのほか、むしろ自信をもって元気に生きるべきなのです。

シニア世代の健康を、国の隠れた資源として役立てていきましょう。社会全体で健康寿命をのばすためにも、まず死因の第1位であるがんにならないことを、一人ひとりが考えようではありませんか。そのためには、がんになるリスクを減らすことが大切です。できるだけ若いうちから、発がんを招くような生活習慣を改めていきましょう。

主な傷病別に見た男女別一般診療医療費の図

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