ウェルネスコラム「過度なストレスが免疫力を低下させる」

ウェルネスコラム

書籍連載

【第1章】現代人の生活は、がん発症の危険因子で溢れている
過度なストレスが免疫力を低下させる

神経の緊張が、がんを招く

強いストレスが病気を招くということは、今では誰でも知っている常識です。ただし、ストレスがまったくない状態が理想かと言うとそうではありません。ストレスゼロの世界では、元気に過ごすこともできません。ストレスは、一般に悪い意味として使われていますが、生きていくうえで必要な"刺激"でもあるのです。

一生がんにならない体をつくる

一生がんにならない体をつくる

要は、バランスの問題です。健康やがん予防を考えるうえで、「バランス」というのは実は重要な概念です。

私たちが通常"ストレス状態"と言っている神経の緊張状態は、肉体活動を活発にする「交感神経」が強く働いているときのことです。ストレスがかかったとき、私たちの体は目の前の状況に対応(闘争や逃走)するために集中し、呼吸を荒くして酸素を多く取り込んだり、心拍数を増して血流を増やしたりして、臨戦態勢を整えます。

反対に、ストレスのない状態のときは、「副交感神経」が働いています。夜眠っているときや、食後にのんびり休憩しているとき、湯船につかってくつろいでいるとき、あるいはマッサージを受けて眠くなったようなときがそれに当たります。

交感神経が優位な状態というのは、日常、仕事で気が張っているときや、スポーツ競技で相手を負かそうと興奮しているようなときです。ストレス状態にあるということは、肉体活動を活発にし、内に秘めている力を発揮できる状態とも言えるでしょう。

ストレスは生命活動やもっている能力を存分に出し切るために必要なものですが、心身の許容範囲を超えるほどの強いストレスがかかってきたときに問題が生じます。

強いストレスは、白血球のバランスを崩し、免疫力を低下させる

実は、ストレスは筋肉を緊張させ、呼吸や心拍数を増やすだけではありません。私たちの自律神経の状態は、血液の状態にも影響を及ぼします。正確に言えば、白血球のバランスに影響するのです。

血液の成分の血球には、赤血球、白血球という区別があることはご存じと思います(そのほかに、出血したとき血液を固めて止血する血小板もあります)。

ストレスは、交感神経を優位にすることで、白血球のうちでも顆粒(かりゅう)球というものを増やし、リンパ球の仲間を減少させます。反対にリラックス状態では、副交感神経を優位にして、リンパ球を増やし、顆粒球を減少させるのです。

全身の細胞に酸素を運んでいる赤血球と、全身の細胞をメンテナンスしている白血球は、共に骨の中にある骨髄でつくられます。元は同じ「造血幹細胞」という細胞として生まれ、それが育つ間にそれぞれの役割をもつようになるのです。

白血球のうち顆粒球の仲間は、主にバクテリア(細菌)の処理を受け持っています。その中心的存在である好中球(こうちゅうきゅう)には、細菌感染を防いだり、血管や臓器の表面にある粘膜(上皮)の再生を促したりする働きがあります。

一方のリンパ球にもさまざまな種類がありますが、免疫の主役として、がん細胞やウイルス感染細胞を処理しています。リンパ球の一種であるNK(ナチュラルキラー)細胞は、活性が高ければどんながん細胞でも殺す能力をもっています。それこそ、がん退治のスペシャリストと言うべき免疫細胞です。

つまり、顆粒球とリンパ球は、どちらも体にとって重要な役割を果たしているわけです。ところが、ストレスによって交感神経の緊張が続くと、顆粒球のほうが異常に増え、がんにならない体をつくるうえで不可欠な、肝心のリンパ球が減少してしまうのです。

顆粒球の割合は通常、60%前後とされています。この割合が増えすぎると、自分の組織を攻撃し、胃潰瘍や関節炎などの「炎症」を引き起こしてしまいます。それは、血液中では数日も生きられない顆粒球が死ぬときに出す活性酸素の作用によるものです。

また、顆粒球過剰の状態は、リンパ球を相対的に減少させますが、リンパ球の仲間でがんを攻撃するNK細胞も同時に減少してしまいます。

免疫力の低下が、がん細胞を増殖させる

ストレスによる免疫力の低下とがんの発症は密接に関係しています。

オーストラリアのフランク・マクファーレン・バーネットというノーベル生理学・医学賞学者の仮説によると、私たちの体内では、毎日数千個のがん細胞が発生していると言われ、事実上の定説となっています。

なぜ、日々数千個のがん細胞が生まれているのに、がんにならないのかというと、大きな腫瘍(がん組織)になる前に、NK細胞ががん細胞を識別し、処理しているからなのです。健康な人はNK細胞の活力(NK活性)が高いので、がん細胞を見つけるや否や殺しているわけです。これを「免疫監視機構」と言います。

この免疫システムが機能し、NK細胞が体中を厳しくパトロールしているので、がん細胞が体内にできても、がんという病気にはならないのです。

では、がんになる人の体内では何が起こっているのでしょうか。

あるときからNK細胞の活性が落ちて、正常に作動しなくなってしまうのです。そのきっかけは、がん以外の病気、放射線被ばく、酸化ストレス、強い精神的ストレスなどさまざまです。いずれの場合も、免疫システムを低下させ、がんの勢いのほうが勝ってしまう逆転が起こるのです。

そうなると、がんはずる賢い本性を発揮して、免疫システムにニセの情報(信号伝達物質)を流してかく乱します。その信号によって、がん攻撃の主力であるNK細胞や、そのほかの免疫細胞の活性が低下し、がんの探査や攻撃をやめてしまうのです。

これが、がんの本性とも言える「免疫抑制」という現象です(下図参照)。こうなると、体内はがんの天下になり、がん細胞ははっきりと塊をつくり、いわゆる腫瘍となってどんどん大きくなっていくのです。がんは大きくなるとさらに勢力を増すので、それによって、NK活性はどんどん低くなっていきます。しかも、そのがんの一部が転移する性質をもったりすると、非常に厄介な存在になります。

少し補足しておきます。免疫が強く発動すると、熱や炎症などを引き起こして外敵を撃退しようとします。それが日常的に起こっては不自由なので、免疫応答にはふだんからある程度の抑制がかかっています。ですから、がんがかけてくる免疫抑制は、免疫システムを眠らせるほどの異常に強い免疫抑制だと理解してください。

体がうまく機能するためには、適度で絶妙なバランスが働いているのです。

免疫監視機構と免疫抑制の図

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