ウェルネスコラム「米国のLAK療法大規模臨床試験」

ウェルネスコラム

書籍連載

【第2章】NK細胞を活性化しないとがんは消えない
米国のLAK療法大規模臨床試験

米国のLAK療法大規模臨床試験

1984年、米国NIHは巨額の予算を投じてNK細胞のがん殺傷力を試す「LAK療法」の壮大な実験を行ないました。LAKとは、「リンフィカイン活性化キラー細胞(lymphokine-activated killer cells)の略です。

がんと診断されたらANK免疫細胞療法

がんと診断されたら
ANK免疫細胞療法

少し言葉の説明が必要になりますが、リンフォカインとはサイトカインのことです。サイトカインはリンパ球の専売特許ではないのですが、最初に発見されたときにリンパ球が出す物質だと思われたので、その名が残っています。要するに、IL2などの免疫刺激物質で活性化したキラー系の免疫細胞のことをLAK細胞と名づけたのです。

また、NK細胞の力に期待しながらも「LANK」とか「活性化NK細胞」と言わなかった理由は、当時は臨床上の実用レベルでNK細胞だけを分離する技術がなく、ほかの免疫細胞もいっしょに活性化させざるをえなかったためだと思われます。

実際、免疫細胞療法のプロトタイプであるLAK療法は、現在から見ると、かなり大ざっぱで乱暴な方法にも感じられます。しかし、それは当時の技術ではしかたなかったことであり、現在のANK免疫細胞療法にいたる道すじをつけたという意味で、1980年代に行なわれたこの実験の価値は、いくら強調しても足りないぐらいなのです。

LAK療法が大量のNK細胞をそろえるために取った手段は、増殖させるのではなく徹底したリューコフェレーシスによる大量摂取でした。人工透析のような機械で体外に血液を採り出し、遠心分離機でリンパ球を分離する方法を3日間連続して行ない、大量のNK細胞を集めます。極めて大量の血液を体外循環させ、血液中に出てきたNK細胞を含むリンパ球を採取する方法です。そのなかにNK細胞も大量に含まれています。そうして集めたNK細胞に、免疫刺激物質IL2を添加します。そうしてNK細胞などの活性と増殖を高めたら、そのLAK細胞を3日以内に体内に点滴で戻すのです。

体外でリンパ球を活性化させる時間を3日に限ったのも、当時の技術からやむをえない選択でした。それ以上体外での培養を続けると、せっかく刺激したNK細胞の活性が、増殖に伴って低下または死滅する可能性があったのです。

しかも、そのLAK細胞を体内に戻すときも、大量のIL2とともに短期間のうちに体内に戻しました。そうすると、極めて激しい免疫刺激が加わります。大量のがん細胞が一気に壊死を起こす際に放出されるカリウムの影響で心停止のリスクもあるため、ICU(集中治療室)の中で体液をコントロールしながら行なわれました。また、IL2の副作用である肺水腫で亡くなる患者様もでました。

このときの被験者は「標準治療の効かない患者様たち」でしたが、腫瘍が消えるケースも含め、15~25%もの高い割合で著効をあげたのです。こうしてLAK療法は、免疫細胞療法の有効性を実証するデータを残したのです。

ただし、個々に見ると効果にバラつきもあり、採取できたリンパ球の状態によって、まったく奏効しないケースもありました。一方、有効なケースでは著しい免疫刺激によって発熱や炎症などの副反応も激しくなります。命がけの治療法だったのです。

このLAK療法は、主にNK細胞の力に期待した治療法でした。しかし、理屈がそうであっても、実際にNK細胞がはたらいたのかどうかは、この結果だけではわかりません。ほかのリンパ球(例えばT細胞)なども著効に関わっているかもしれないからです。

そこでローゼンバーグ博士は、ある消去法でNK細胞の役割を証明しました。NK細胞を除去してLAK細胞を追試し、細胞傷害活性が失われることを示してみせたのです。

1984年に大規模臨床試験が行われたLAK療法

TIL療法(CTL主体の免疫細胞療法)

LAK療法で免疫細胞療法の有効性を示した翌年の1985年、ローゼンバーグ博士のグループは、別の免疫細胞療法についても大規模臨床試験を行ないました。実験したのは、特定のがんを攻撃するCTLを主役とするTIL療法です。TILとは、「腫瘍浸潤リンパ球」(tumor-infiltrating lymphocytes)の略で、主にがん組織のなかにいるT細胞のことをいっています。

TIL療法の前提は、腫瘍組織の中にいるT細胞には、そのがんを攻撃しているCTLが含まれるはずだという仮定です。その仮定のもと、体内の腫瘍の一部を採取して、そのなかのT細胞を増殖させます。T細胞は、NK細胞よりも培養が容易な免疫細胞です。

そうやってCTLとみなしたリンパ球を体外で培養しながら、今度は体外培養によって、大量にCTLを増殖されます。選択的に増殖させることができなかったNK細胞よりも、CTLの方が実用化は容易と考えられたのです。被験者(患者)自身には、強力な化学療法(殺細胞剤による抗がん剤治療)を行ないます。その目的は、腫瘍そのものを縮小させることではなく、異常な免疫抑制に関わっている体内の免疫細胞を全滅させることにありました。

がん患者の体内は、異常に強い免疫抑制状態にあります。それは、がん細胞のニセ信号にだまされて、免疫細胞どうしが「免疫の発動を抑えよう」と信号を送り合っているからです。そこで、だまされて免疫抑制をかけている免疫細胞を根絶やしにして、強引に免疫抑制をリセットさせたのです。

免疫抑制をかける細胞群が抗がん剤で一掃された体内には、もはやNK細胞はいません。そこへ、培養していた大量のT細胞を投与したのです。

このTIL療法は、培養したT細胞が実際にCTLであり、そのタイプが結果としてがんに合っていれば、やはり明らかな効果がでました。逆に、採取したT細胞がCTLでなかった場合には、がんを攻撃してくれません。そうして無効に終わるケースも、実際に多かったようです。その後の研究で、腫瘍組織のなかにいるT細胞には、むしろ免疫を抑制しているものが多く、CTLはごく一部しか含まれないことが明らかになりました。

TIL療法もまた、がんとタイプの合うCTLが培養さえできれば、そのCTLによる免疫細胞療法は有効だということを証明しました。現在では、TIL療法の改良版に相当する「CTL療法」も確立し、ANK免疫細胞療法を実施している医療機関ではオプションとして提供されています。CTLは、患者自身の生きたがん細胞があれば、患者自身の体内から採取したナイーブな(つまり若くて感受性の高い)T細胞と一緒に培養して作成することができます。

ただし、CTLにはNK細胞ほどのがん殺傷能力はなく、体内のがん細胞がすでに性質を変えていれば無効になります。そのため、あくまでもANK免疫細胞療法と同時に行なうことになっています。また、生検のサンプルなど、患者自身の生きたがん細胞が必要です。死んだ標本などでCTLを誘導しようとすることもできますが、その場合は、実際にCTLが育ったかどうかは確かめられないことになります。

1985年に実験されたTIL療法

免疫細胞療法の難関 NK細胞の培養

LAK療法とTIL療法の大規模臨床試験で、免疫細胞療法の有効性は明らかにされました。しかし、それは同時に、免疫細胞療法の課題を示すものでもありました。

LAK療法がICUで行なわなければならないほど危険な治療法になったのは、活性化したリンパ球を一度に投与して、猛烈な刺激を与えるほかなかったからです。NK細胞を長い期間培養し、数や活性を調整しながら投与する技術があれば、そのような命の危険を患者に強いる必要はありません。

LAK療法が示した免疫細胞療法の課題は、そこにありました。つまり、免疫細胞療法を実用化するためには、NK細胞の培養技術を確立する必要があるということです。

しかし、NK細胞は、培養するのがきわだって難しいデリケートな免疫細胞です。その理由として、まず、さまざまなリンパ球のなかから、NK細胞だけを単独で分離するのが難しいことが挙げられます。NK細胞はT細胞ほど簡単に増えないので、体外に採り出すと、いっしょにいるT細胞がどんどん増えて、その中に紛れてしまいます。

次に、NK細胞は、体外で人工的に増殖させると活性が下がってしまうのです。活性が低下するとがんを識別・攻撃する力が弱まってしまい、治療に使えなくなります。ところが、そこで無理に活性化させようとして強く刺激しすぎてもいけません。NK細胞のなかにはパーフォリンというたんぱく質の顆粒が大量に含まれています。これががんを殺すミサイルのような物質なのですが、培養条件が合わないとこれによって「自爆」して、NK細胞自体が死滅してしまうのです。

米国では、培養条件をマニュアル化しようと努力しましたが、NK細胞はしょっちゅう気まぐれに変化するため、マニュアル化は通用しないのです。ローゼンバーグ博士らが免疫細胞療法の有効性を示した1980年代には、まだNK細胞の活性を高めながら増やすような匠の技はありませんでした。LAK療法では、増殖に伴ってNK細胞の活性が下がる前に、リンパ球を体内に戻す設計が避けられなかったのです。

NK細胞の培養はなかなかうまくいかず、実用化のめどがたちませんでした。その間に、培養の容易なT細胞を用い、CTLの作用に期待する免疫細胞療法の研究が進められてきました。体外でリンパ球集団を増やす活性化リンパ球療法や、体内でのCTLの誘導を試みる樹状細胞療法、がんペプチドワクチンなどがあります。

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