ウェルネスコラム「唯一のがんの大敵 NK細胞の活性を高めよ!」

ウェルネスコラム

書籍連載

【第2章】NK細胞を活性化しないとがんは消えない
唯一のがんの大敵 NK細胞の活性を高めよ!

免疫細胞の研究が進んだ1970年代

1950年代にバーネット博士が提唱した免疫監視機構説(がん細胞は日常的に体内に生じているが、免疫の働きにより退治されているという説明)は、今日ではほぼ定説となっています。電子顕微鏡などの観察技術が進んだ1970年代になると、NK細胞などの免疫細胞が特定され、体内の免疫監視機構でそれらの細胞が果たしている役割も徐々にわかってきました。

がんと診断されたらANK免疫細胞療法

がんと診断されたら
ANK免疫細胞療法

まず、すでに存在の知られていたT細胞の研究が本格化します。そして、さまざまな働きを持つT細胞のなかに、特定のがん細胞を攻撃するCTL(キラーT細胞の一部)が存在することが確認されました。

ただし、CTLはキラーT細胞のごく一部で、がん細胞が性質を変えると攻撃しなくなります。実は、キラーT細胞は、特定の目印物質を標的として攻撃しているだけで、がん細胞を正常細胞と見分けて攻撃するわけではないのです。かたやがん細胞は、ひんぱんに姿を変える性質があります。その際にがんが目印物質を隠すと、CTLは攻撃の標的をなくしてしまうのです。またCTLは、がんを攻撃する力も、当時まだ特定されていなかったNK細胞に比べると強くはありません。

白血球、免疫細胞、リンパ球

NK細胞やT細胞などの免疫細胞というのは、免疫系のなかで役割を分担しているいくつもの細胞の総称です。がんと闘うNK細胞やCTLも、もちろんその仲間です。それらの仲間は、もともとは同じ造血幹細胞という細胞から、赤血球(肺から全身に酸素を運び、不要な二酸化炭素を回収する)や血小板(傷をふさぐ)、ほかの白血球などとともに分かれ育ってくるのです。

白血球のうち、免疫細胞と呼ばれるのは、NK細胞、T細胞、B細胞と、樹状細胞、マクロファージなどです。そのうち、骨髄・胸腺・リンパ節などのリンパ組織にたくさん存在するNK細胞、T細胞、そしてB細胞は、ほかの免疫細胞と区別してリンパ球と呼ばれています。リンパ球は比較的小さな免疫細胞で、NK細胞も、T細胞も、B細胞も、見た目だけでは、ほとんど見分けがつきません。

すでに述べてきたように、がんに対する免疫の主役はNK細胞で、T細胞の一部であるキラーT細胞のさらに一部が、がんを攻撃するCTLとしてNK細胞をわずかに助けます。キラーT細胞には、ほかにもウイルス感染が体を脅かしたときに、感染細胞を破壊する仲間がいます。B細胞は、主にバクテリアなどの感染に対して発動するリンパ球で、およそあらゆる抗原(目印)を標的とする抗体を作り出します(1つ1つのB細胞は、T細胞と同じように、1種類の抗体だけを担当しています)。

感染症に対する免疫の司令塔は樹状細胞で、消化管粘膜のような「異物」と接しやすいところに存在し、いわば見張りに立っています。そこで異常なウイルスやバクテリアの増殖を察知すると、リンパ組織にいるキラーT細胞やB細胞を動員し、敵と戦わせるのです。

免疫の種類と担当免疫の図

「生まれながらの殺し屋」NK細胞の発見

樹状細胞も、1970年代からしきりに研究されてきました。そのなかには、がんとの関わりを探ったものもたくさん含まれます。今日なお、がん免疫細胞療法への応用を模索しているグループがありますが、基本的には、感染症に対する免疫の司令塔として重要な細胞です。がんに対する免疫にも複雑に関係はしているらしいのですが、NK細胞のように「腫瘍免疫の主役」といえる免疫細胞ではないようです。

そのように免疫細胞の探究が進み、がんとの関係が多角的に研究されるなか、NK細胞は、発見される前から、その存在が予見されていた免疫細胞です。

なぜかというと、健康な人の血液を集めてがん細胞を混ぜると、がん細胞が数日で壊滅する現象が確認されていたからです。実験が行なわれた限り、がんの種類を問わず、あらゆるがんで同じ現象が観察されました。それは、CTLとは明らかに違う種類の作用の主体です。血液の中にいるはずの、その細胞を研究者たちは探し求めていました。

そうして、1975年に「これだ」とわかったのが、生まれながらのがんキラーであるNK細胞なのです。つまり、NK細胞はもともとがん退治の主役として探されていて、あとからようやく正体がつきとめられたのでした。そして、その働きどおりに「ナチュラルキラー」と名付けられたのです。

なぜ見つけるのが難しかったかというと、いくつかの理由が考えられます。まずは免疫細胞どうしの形状が似ていることです。樹木に形が似ている樹状細胞のように、際立って違う形をしていれば別ですが、よく似た細胞の集まりの中から異なる働きをしている細胞を特定することは容易ではないわけです。また、NK細胞はT細胞より培養が難しく、増殖が遅いので培養して調べようとしてもなかなか分離できないそうです。

腫瘍免疫の主役NK細胞の働き

さて、ようやくがん退治の主役であるNK細胞が見つかりました。この細胞は、CTLのように、がんの種類によって攻撃したりしなかったりする細胞ではありません。活性が高いNK細胞は、数十種類のセンサーでがん細胞と正常細胞の微妙な違いを見分け、がん細胞とわかればどんどん殺していきます。

がん細胞は、もともと正常細胞と同じ物質でできています。違うとしたら細胞の表面に出ている物質のふるまい(バランスやパターン)ぐらいで、その差を見分けられるのは、生きたNK細胞だけなのです。これはやはり、薬はもっていない「性能」です。そうして見分けたNK細胞をがん細胞が攻撃する方法は、注射や爆弾に例えられることが多いようです。まず、NK細胞はがん細胞にくっつき、パーフォリンという物質で細胞膜に穴を開けます。そこからグランザイムという物質をがん細胞の中に撃ち込んで、アポトーシス(自死)に導きます。がんに限らず細胞のアポトーシスというのは、縮んで泡になるイメージです。爆弾を放り込まれたがん細胞は、爆発して粉々になるというよりは、しぼんで屑になるわけです。

ただし、それは健康な人の活性が高いNK細胞での話です。いわば理屈であって、実際のがん治療となると話は別です。うんちくが役立つわけではありません。がん患者の体内では、このNK細胞をはじめ、腫瘍免疫を担う免疫細胞が軒並み眠らされたような状態になっているわけですから、どうやって本来のNK細胞の力を発揮させるか、回復するかが課題となります。

活性化されたNK細胞こそが、唯一のがんの大敵なのです。NK細胞が本来の働きをしてくれれば、がん細胞はのさばることはできません。免疫系がん治療において究極のテーマは「眠った免疫=NK細胞を目覚めさせること」に尽きるのです。

サイトカイン=免疫刺激物質の体内投与

がん患者のNK細胞を目覚めさせる画期的な方法は、NK細胞が見つかってもすぐには現われませんでした。しかし、1980年代になってバイオテクトノロジー(生物工学)が進むと、インターロイキン2(IL2)など、サイトカインといわれる物質が人工的に生産できるようになりました。

サイトカインというのは、私たちの体内で免疫細胞どうしが連絡に使っている信号伝達物質です。これには、インターロイキン、インターフェロンなどさまざまな種類があります。一部のがん細胞に過剰発現し、抗体医薬品の標的となるレセプター(受容体)にEGFRがありますが、このレセプターが受け取る細胞増殖因子「EGF」もサイトカインの一種です。

工業生産が可能になったサイトカインのうち、免疫系がん治療で最も重要なのはIL2です。インターロイキンにもいくつもの種類があり、IL2は、そのうちの1つです。このサイトカインは、免疫細胞の活性化や増殖を促す物質で、それは、免疫を強く刺激する作用があるということを意味します。IL2が大量生産できるようになって、免疫系がん治療は大きく歩を進めることになりました。

まず、体内にIL2を投与して免疫を刺激することが試みられました。いうまでもなく、免疫系に刺激を加え、免疫抑制をリセットしてNK細胞などの活性を回復するためです。

しかし、効果を上げるにはIL2の大量投与が必要で、そうすると発熱や炎症などの副反応(薬の副作用に相当する反応)が激しくなります。逆に、少量ではあまり免疫刺激効果が発揮されません。これは、100年近く前のコーリーの毒とまったく同じ結果で、免疫抑制を破るのがいかに難しいかをあらためて示したものでした。

発想の転換―体外でNK細胞を活性化する!

サイトカインを体内投与した結果から、免疫刺激物質の大量投与はやはり危険をともなうことがわかりました。狙った効果を上げるためには安全性を犠牲にしなければならず、そのバランスという面で限界があるのです。これでは、決定的ながん治療法にはならないことが確認されました。

一方で、別の方法が模索されます。免疫細胞を活性化させるIL2は、体の外に採り出した免疫細胞を生かし、培養するのにも必須の物質です。そこで、体外でNK細胞などを活性化、増殖させてから、それを体内に戻してがん治療に応用できないかと、考える人たちが現れたのです。すなわち「免疫細胞療法」です。

活性が低いNK細胞と活性化されたNK細胞の違い

コーリー以来の免疫系がん治療は、異常に強い免疫抑制がかかった体内に、病原菌やサイトカインなどの免疫刺激物質を投与して免疫を目覚めさせようとしてきました。しかし、体外で免疫細胞を大量培養できるなら、免疫抑制と関係のない体外にいったんNK細胞などを採り出し、刺激を与えて目覚めさせることができるはずです。それを再び、患者の体の中に戻してやればよいのではないか―。免疫細胞療法は、そもそもそういう発想を形にしようとしたものなのです。

そして、1984年、NK細胞を応用した免疫細胞療法の大規模な臨床試験が、アメリカで行なわれました。当時アメリカは、莫大な予算を投じ、国の威信をかけてがん撲滅のための研究を推し進めていました。そんななか、有名な外科医師スティーブン・A・ローゼンバーグ博士のもと、NIHで免疫細胞療法の実験が繰り広げられたのです。

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