ウェルネスコラム「がんが治るのはどういうときか」

ウェルネスコラム

書籍連載

【第2章】NK細胞を活性化しないとがんは消えない
がんが治るのはどういうときか

がん免疫系治療の源流「コーリーの毒」

がんの免疫系治療というと、ごく最近になって出てきた新しい考え方だと思っている人も多いかもしれません。しかし、免疫の力でがんを治そうとした医学の試みには、意外と長い歴史があるのです。現代のがん治療に直接つながる免疫系治療は、すでに100年以上前に源流を見出すことができます。

がんと診断されたらANK免疫細胞療法

がんと診断されたら
ANK免疫細胞療法

もちろん、ANK免疫細胞療法にいたる「免疫細胞療法」にかぎっていえば、取り組みが始まったのは1970年代以降です。体内の免疫抑制を薬物などで打破するには患者様の生死に関わる強い刺激が必要なため、免疫細胞を体の外に採り出して目覚めさせる、免疫細胞療法が初めて考案されました。

がん免疫療法が超えなければならない壁として、「コーリーの毒」が知られています。19世紀に実際にがん患者様を治療した医師の名前をとったものですが、学術誌『ネイチャー』に論文が掲載され、科学史に重要な1ページを記しました。具体的に何をやったのか逸話をご紹介しましょう。

ウィリアム・コーリー医師は、19世紀後半から20世紀の前半にかけて、アメリカでがん治療に取り組んでいた外科医師です。1890年前後、ニューヨークがん病院に勤務していたコーリー医師は、担当していた肉腫(がんと同様の悪性腫瘍の一種)の患者様の一人が丹毒(溶血性連鎖球菌による感染症)にかかって高熱を出した後、その人の腫瘍が消失したことを確認します。

当時、まだNK細胞をはじめとする免疫細胞の姿や、腫瘍免疫の詳細は解明されていません。しかし、細菌学はすでに飛躍的に進歩し、現代医学はその枠組みをおおむね確立しようとしていました。コーリー医師は「単独の病原菌である溶連菌の感染が、患者のがんを消失させた」と考えました。そして、同じような腫瘍の消失例を報告した論文を集めます。

コーリー医師以前にも、がんの患者様が発熱した後に、がんの縮小や自然治癒が見られたことを報告した医学者は少なくありませんでした。過去の報告例を検証したコーリー医師は、がんの治癒・縮小には猛烈な「発熱」が関係していることを推定しました。そして、ついに生きた溶連菌を意図的にがん患者様に感染させる荒療治に踏み切ったのです。

安全な刺激で免疫抑制は破れていない

この冒険的な治療は、コーリー医師の狙いどおり、高熱を出した患者様の転移がんが治るなどの、画期的な成果もあげました。しかし、ほかならぬ感染症(丹毒)のために命を落とす患者様もたくさん出たようです。当時、溶連菌に効く抗生物質はありませんでした。この毒性の強い病原菌を人に投与することは、いってみれば大きな賭けだったのです。その危険性は、当然ながらこの治療が普及するうえで障害になりました。

皮肉なことに、コーリー医師の意欲的な試みとちょうど同じ頃に、ラジウムによる放射線治療が登場しています。当時、この原始的な放射線治療は、安全で効果がある画期的ながん治療法と受け止められ、広く歓迎されました。そして、新しい治療法として放射線治療が普及する一方で、コーリーの毒は敬遠されるようになっていったのです。

それでも、コーリー医師の行なった試みは、後続するさまざまな免疫系治療に、多大な示唆を与えてきたことはまちがいありません。ANK免疫細胞療法を含む免疫細胞療法も、もちろん例外ではありません。

コーリーの毒が示唆していることを端的にいうと、「がん患者様の体内に強力な刺激物を投与すると、高熱を発するのと引き換えに、がんが治ることもある」ということです。これは今日的にいうと、非常に強い免疫刺激が、異常に強い体内の免疫抑制を破ったということにほかなりません。

その後、コーリーの毒の危険性を弱めるため、毒物の体内投与による免疫刺激は「弱毒化」の道をたどっていきます。患者様の体内に投与しても命の危険を伴わず、しかも免疫を刺激してがん治療に役立つような物質。それを、多くの研究者が見つけようとしてきました。しかし、この方法には限界があるようで、コーリーの毒を超えるような有効性を示した治療は、いまだに報告されていません。

現在でも、がん治療に使われる免疫賦活剤(免疫を活性化させる薬)には、溶連菌を弱毒化し凍結乾燥で殺したピシバニールや、カワラタケの成分クレスチン、結核菌を弱毒化し一部を抽出した丸山ワクチンなどがありますが、これらは安全性を高めた代償として、効果はおちてしまい、単独で腫瘍を縮小させるような威力はありません。

どうやら、命を脅かすぐらいの強い刺激を与えないと、眠ってしまった体内の腫瘍免疫は目覚めてくれないようです。コーリーの毒以来100年余りたっても、がんによる異常な免疫抑制は、常に、免疫系がん治療の前に立ちはだかっているのです。

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