コラム「分子標的薬のADCC活性」

コラム

書籍連載

【第1章】かぜもがんも原因は「免疫力」
分子標的薬のADCC活性

抗体医薬品の重要な作用

レセプターに結合することで、細胞が増殖信号などを受け取れなくする作用が、抗体医薬品の「中和活性」です。
しかも、抗体医薬品の作用は、それだけではありません。免疫細胞を温存することで得られる、大きなメリットがあるのです。それは、ADCC活性(抗体依存性細胞傷害活性)です。それによってNK細胞ががんを殺傷する効率を数倍強く引き出すという重要な作用です。あまりご覧になる機会はないと思いますが、中外製薬が発売しているハーセプチンの添付文書では、「作用機序」の箇所に次のような記載があります。

がんと診断されたらANK免疫細胞療法

がんと診断されたら
ANK免疫細胞療法

「本薬はHER2に特異的に結合した後、NK細胞、単球を作用細胞とした抗体依存性細胞障害作用(ADCC)により抗腫瘍効果を発揮する」

つまり、抗体(ハーセプチン)が細胞のHER2に結合すると、体内にいるNK細胞などを引きつけ、がんを殺すということが書いてあるわけです。

ここで注目したいのは、ハーセプチンが「NK細胞の活性を増強する薬」であることを明記しているということです。

このADCC活性、要するに体内のNK細胞を助けてがんを攻撃させるはたらきが、抗体医薬品の持つ第2の作用です。問題は、がん患者様の体内では、NK細胞が本来の活性を失って眠ったようになっていることです。しかし、体外培養により増殖・活性化されたNK細胞なら抗体医薬品のADCC活性によって、がんを攻撃する力が、より強く引き出されることが期待できます。

抗体医薬品をはじめとする分子標的薬は、増殖を抑えることを主な目的としています。

しかし実際に、分子標的薬を使っている患者様の一部では、明らかにがんが小さくなるケースが見られます。がん患者様は、おしなべてNK細胞の活性が低下しています。しかし、そのなかでも程度の差があり、相対的にNK活性が高い患者様はADCC活性がはたらきやすいのではないかと考えられます。

ADCC 活性

抗体医薬品のADCC活性を高める技術

私は、21世紀のがん治療が免疫を重視した方向へ進むのはまちがいないと考えています。そのなかで、抗体医薬品の重要性はさらに増していくだろうと思われます。その大きな理由の1つがADCC活性で、NK細胞を主役とする免疫の力をさらに強力に引き出してくれることを期待しています。

そんななか、すばらしい朗報もあります。2012年、ADCC活性を飛躍的に高めた抗体医薬品が実用化されたのです。ATL(成人T細胞白血病)という特殊ながんにむけた治療薬、モガムリズマブ(商品名ポテリジオ®)です。この薬は、ATLでがん化したT細胞が、過剰発現しているCCR4というレセプターを標的としています。

ATLは、HTLV -1というウイルスの感染がもとになって、何十年も後にT細胞ががん化する特殊な白血病です。生涯を通じてHTLV -1感染者の約5%がATLを発症するとされ、頻度がとても高いわけではありません。しかし、いったん発症すると進行が速く、殺細胞剤があまり効かない白血病なので、なかなか治療が難しかったのです。

協和発酵キリンのポテリジオは、がん化したT細胞の表面に出ているCCR4に結合します。ポテリジオ自体は増殖するだけで、ATL細胞を殺しません。しかし、非常に高いADCC活性を発揮し、がん化したT細胞をNK細胞に破壊させるのです。

ADCC活性を高めているのは、同社が世界の主要医学品メーカーなどにもライセンスしているポテリジェントという抗体加工技術です。具体的には、NK細胞と結合する抗体の「腕」から、フコースという物質を減らすのだそうです。そうすると、抗体に対するNK細胞の結合力が強くなります。がん細胞表面のレセプターに抗体がくっついたときも、NK細胞を引き寄せやすく、それだけがんへの攻撃力が強まるという理屈です。

この技術で加工された抗体をポテリジェント抗体といって、そのADCC活性は、実験系のなかで従来比約100倍になったと報告されています(ただし、薬の効き目が100倍になるわけではありません)。

もちろんこの技術は、ATL以外のすべてのがんを対象とした抗体医薬品にも応用が可能で、すでに世界の医薬品メーカー20社にもライセンスされて臨床開発中です。近い将来には、既存の抗体医薬品のポテリジェント抗体など、ADCC活性の非常に高い抗体医薬品の開発が成功するはずです。私はこの技術に大きな期待を寄せています。

【次のページ】免疫とは何かを知ることががん治療に重要

【前のページ】分子標的薬の登場(2)

目次へもどる

がんの相談センター

ご相談・資料請求はこちら