コラム「分子標的薬の登場(2)」

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書籍連載

【第1章】かぜもがんも原因は「免疫力」
分子標的薬の登場(2)

がん特有の物質は見つかっていない

がん細胞に特有の物質(特異抗原)を見つけ、それを標的とする薬で狙い撃ちする発想が「ミサイル療法」です。とくに、アメリカを中心に1980年代以降にさかんに研究されてきました。ミサイル療法というと、そのような治療法が存在するような誤解を与えてしまうかもしれませんが、あくまでもそのような研究・臨床試験に対して使われていた言葉です。

がんと診断されたらANK免疫細胞療法

がんと診断されたら
ANK免疫細胞療法

しかし実に残念なことですが、膨大なお金と時間をつぎ込んで研究しても、明確にがん特有の物質といえるものは見つからなかったのです。それも道理で、がん細胞の元は、自分の内にあった正常細胞で、バクテリアのような異物ではありません。がん細胞と正常細胞は、基本的に同じ物質でできているのです。

ミサイル療法が発想された背景には、1980年代後半に、腫瘍マーカーが続々と開発されたこともありました。血液中に出てくる腫瘍マーカーは、がんの状態を探る診断数値として使われていますので、皆さんにもおなじみかと思います。がんになると、特定の腫瘍マーカーが増えることから、それを標的とする薬を作り、体内のがん細胞を狙い撃つことができるのではないか。それは、研究者として自然なアイデアだと思います。

ところが、腫瘍マーカーを標的として作ったミサイル(薬)を撃っても、やはり正常細胞に対するダメージは避けられないことがわかりました。それは、腫瘍マーカーががん特有の物質ではなかったからです。腫瘍マーカーとして使われる物質は、がんになったからできたのではありません。もともと正常細胞の中に存在しているのです。がんになると、細胞が壊れることでそれが血液中に溶け出してくるため、顕著に血中濃度が増加するのです。

遺伝子解析で危険ながんの特徴がわかってきた

一方で、1990年代には、コンピュータを使ったヒトゲノム解析(遺伝子解析)が、飛躍的に進みました。その結果、いわゆる「発がん遺伝子」も次々と発見されています。

ただし、発がん遺伝子というのは、「それがあるとがんになる」といった単純なものではありません。正常な細胞にも存在し、増殖などをコントロールしている遺伝子です。しかし、この遺伝子になんらかの原因で異常(変異)が起こると、細胞の増殖にブレーキがかからなくなったりして、発がんにつながるのです。

がん細胞のなかでは、その結果として特定の物質の活動が活発になります。つまり、がん細胞と正常細胞は同じ物質でできているけれども、そのふるまいが違うということです。そして、そのふるまいの差が、増殖信号などの信号伝達物質を受け取るレセプターの発現に関わっているのです。

研究の結果、一部のレセプターは、再発・転移しやすい危険ながんに多く現れていることがわかってきました。その1つがEGFR、もう1つはHER2で、ともに分子標的薬が標的としているレセプターです。

抗体医薬品アービタックスが標的とするEGFRは、正常な細胞にもありますが、一部のがんでは、細胞表面にこれが異常にたくさん生えています。そのようながんは、周辺の正常な組織にどんどん浸潤していく性質があります。そして、同じ部位で再発を繰り返したり、近くの組織に転移したりしやすい傾向を見せます。正常な組織にがんが浸潤すると、壊れた組織を回復するためにさかんに増殖信号が発せられます。EGFRを大量に出しているがんは、その増殖シグナルを受け取って、さらに勢いよく成長するという、たちの悪いタイプです。

ハーセプチンが結合するHER2は、正常細胞にはそれほど多くみられない物質です。HER2を大量に発現しているがん細胞は、遠くまで転移しやすい性質があります。全身に散らばって転移・再発しやすいがんだといえます。

新しい抗がん剤のなかでも、抗体医薬品は、再発・転移しやすい危険ながんが大量に出している信号伝達物質のレセプターをふさいで、増殖信号を受け取れなくする薬なのです。

細胞表面のレセプター

少し難しい話が続いたかもしれませんが、従来の抗がん剤と、新しいタイプの抗がん剤の違いは、おわかりいただけたでしょうか。

従来の抗がん剤(殺細胞剤)は、分裂中のDNAを切ることで細胞を殺す薬です。正常細胞や免疫細胞も巻き添えにしてしまいますが、なるべく多くのがん細胞を殺すことで、がんを小さくする設計になっています。

一方、新しいタイプの抗がん剤(抗体医薬品に代表される分子標的薬)は、がん細胞で異常な活動をしている物質に狙いを定め、活動(増殖)を抑えます。殺細胞剤のようにがん細胞を殺すわけではありませんが、正常細胞を殺したり免疫に打撃を与えたりしないということも特長です。

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