ウェルネスコラム「標準治療の限界を知る」

ウェルネスコラム

書籍連載

【第1章】かぜもがんも原因は「免疫力」
標準治療の限界を知る

手術と放射線は局所療法

ここで、がんと診断されたら、ほとんどの患者様が受けることになる、標準治療について理解しておきましょう。現在、多くの大学病院や総合病院で、保険診療として行なわれているのが、がん標準治療です。「保険診療」というのは、国民の多くが持っている「保険証」で受けられる、公的医療保険が適用される医療です。がんの治療法のなかでも、内視鏡を含む外科手術、X線を利用する放射線療法、抗がん剤(殺細胞剤)による化学療法は、「三大療法」としてよく知られています。

がんと診断されたらANK免疫細胞療法

がんと診断されたら
ANK免疫細胞療法

そのうち、手術と放射線は局所療法、化学療法は全身療法です。1つめの外科手術は、局所のがんを一度に取り除くことができるので、早期がんにおいては根治療法になるともいえます。

また、がん細胞の性質なども、手術で採ったサンプル(検体)を病理検査で分析して、ようやくはっきりします。私も内視鏡検査で多くのサンプルを採りますが、それによってがんが見つかれば、「めでたく早期治療」ができるのです。ただし、粘膜内にとどまらず浸潤している進行がんの場合は、すでに述べたように手術だけで治すことはできません。

2つ目の放射線療法は、位置づけをいえば、手術と同じ局所療法です。がんの固まっているところにX線などを浴びせ、ダメージを与えて縮小させる目的で行ないます。最も一般的な放射線療法だと、数十回に分けてX線を患部に照射します。X線は分裂中の細胞を殺すので、効果は殺細胞性の抗がん剤と似ています。

進行がんの標準治療では必須の抗がん剤(殺細胞剤)

そして、3つ目の化学療法は、いわゆる抗がん剤治療です。現在、化学療法の主力として使われている抗がん剤(殺細胞性化学療法剤)は、「殺細胞剤」とも呼ばれます。「殺細胞性」というのは、文字どおり細胞を殺す性質を意味しますが、そのしくみは、治療中に分裂している細胞のDNA(遺伝子)を切ってしまうのです。細胞は、がんでも正常組織でも、増殖するときにDNAが露出し、2倍に分裂します。殺細胞剤は、そのタイミングにある無防備な状態の遺伝子を狙うわけです。これは、薬を全身に回す「全身療法」になります。

通常、進行がんの標準治療では、手術と抗がん剤(以下、殺細胞剤)による化学療法がセットになっていて、手術が終わるとすぐに殺細胞剤治療が始まります。しかし、その治療成績はというと、例えば遠隔転移している進行胃がんの場合、前述のように5年生存率5%以下です。

主ながん治療の種類と特徴

殺細胞剤のしくみは、先ほど説明したとおりで、分裂中の細胞を殺します。なぜそういう薬の設計になっているかというと、「がん細胞は増殖が速い」という前提に立っているからです。狙っているのが分裂中の細胞ですから、がん細胞でも分裂していなかったものは生き延びます。逆に、正常細胞でも分裂中だったものは巻き添えになります。消化管粘膜、皮膚、毛髪、そして骨髄といった、細胞分裂が速い組織の細胞はとくにダメージを受けます。

骨髄は、造血機能があり、免疫細胞も骨髄でつくられます。

要するに、敵も味方も皆殺しにするのが殺細胞剤なのです。がんと同時に免疫細胞も殺してしまいますが、がんは弱った免疫をさらに強く抑制しながら増殖するため、生き残ったがんはあっという間に増殖するのです。抗がん剤でがんが消え、喜んで快気祝いをしたのもつかの間、半年後に全身にがんが転移して、亡くなってしまうようなことがあります。それは、がんの天敵である免疫細胞を、抗がん剤が殺したり弱めたりするからなのです。

殺細胞剤では殺せないがん幹細胞

しかも、最近になってわかってきた新事実があります。がん細胞のなかに、わずかですが「がん幹細胞」というがんの種があることです。がん幹細胞は、ほとんど分裂しない(非常にゆっくりとしか増殖しない)ため、殺細胞剤はこの細胞にまったく無力であることがわかったのです。

一般に「幹細胞」という名前がつくのは、さまざまな細胞に枝分かれする前の細胞です。例えば、NK細胞をはじめとする多種多様な免疫細胞は、造血幹細胞という幹細胞から分化してできます。幹細胞とは、いろいろな細胞に枝分かれしていく幹に当たるため、その名があるのです。最近よく話題に上るiPS細胞も、人工的な幹細胞です。

がん幹細胞も、さまざまな性質のがん細胞に分化する前の幹細胞です。これは、がんになる前は非常に分裂が遅く、何カ月も何年も鳴りを潜めていることさえあります。そのために、がん幹細胞を殺細胞剤で殺し尽くせる可能性は極めて低いのです。すると、治療後に生き残ったがん幹細胞から、またがんが生まれてきます。殺細胞剤でがん細胞を全滅させるのは、実は不可能に近いことになります。

最近は、患者様にも、このがん幹細胞のことをご存じの方が増えて、診療の際に「がん幹細胞が問題なんですよね」と口にされたりするようになっています。

このように、標準治療は、局所に固まっているがんは治せるものの、飛び散るがん(進行がん)が相手だと、限界があるのです。その理由は、分散したがんを確実に殲滅する全身療法がないからです。残念ながら、転移する進行がんを、標準治療で根治することは極めて困難なのです。

毒ガスから作られた最初の抗がん剤

殺細胞剤は「細胞毒」とも呼ばれ、体内で細胞毒性を発揮します。細胞毒性というのは、要するに、細胞を殺したり傷つけたりする作用のことです。

殺細胞剤は、もともとは毒ガスからできた薬です。薬なのに「毒」だと聞くと、びっくりする人もいるかもしれません。しかし、その抗がん剤は、「シクロホスファミド」という名前で、いまも現役のがん治療薬として使われています。

そもそも薬というものは、抗がん剤に限らず、基本的には毒物なのです。「毒をもって毒を制す」という言葉がありますが、病気治療を目的とした薬剤の場合、これは別段たとえではありません。

ある化学物質を、ある量で人に投与したとき、病気を治すうえでメリット(薬効)が得られたとしましょう。そのとき、副作用(毒性)が許容できる範囲であれば、それは「薬」として使えることになるのです。一方、得られる薬効よりも副作用のデメリットのほうが大きければ、患者様の健康に支障がありますので、普通は薬として使いません。

ただし、抗がん剤の場合には、メリットとデメリットが半々ぐらいでも、積極的に使われています。命に関わる病気なので、副作用が相当に強くても、治療効果(延命効果)が得られるなら、そのほうがよいと考えられているからです。

シクロホスファミドの元になった毒ガスは、マスタードガス(イペリット)といいます。マスタードガスは、農薬の研究過程で作られたのですが、あまりにも毒性が強いので、農薬としては使い物になりませんでした。しかし、人類は、それを化学兵器に応用したのです。マスタードガスがドイツ軍によって初めて使われたのは、第一次世界大戦中の1917年でした。ちなみに、近代史上初の毒ガス戦はそれよりも前です。第一次世界大戦は初期から化学兵器(毒ガスなど)の応酬で、1914年にフランスが催涙性のガスを、1915年にドイツが塩素ガスを使っています。ひとたび大量殺戮兵器である塩素ガスが使われると、どの国も競って毒ガスを開発するようになりました。

毒ガスの戦争使用は非人道的とされ、現在は化学兵器禁止条約で開発や貯蔵も制約されています。第一次世界大戦後、1925年のジュネーブ議定書でも、戦争での使用は禁止されましたが、開発自体は続いていました。

そして、第二次世界大戦中の1943年、毒ガス兵器として開発されたマスタードガスを、がん治療に応用できないかとアメリカの研究者が思いつきます。偶然の事故から、水に溶けたマスタードガスにヒトの白血球を減らす作用があることがわかり、「ナイトロジェンマスタード」という抗がん剤が作られたのです。これを末期の悪性リンパ腫の人に投与したところ、一定の効果が得られました。がんの治療手段が手術、放射線治療に限られていた時代に、世界で初めて作られた抗がん剤でした。

1959年にナイトロジェンマスタードから作られた抗がん剤「シクロホスファミド」は、急性白血病や悪性リンパ腫をはじめ、肺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がんなど、幅広いがんに使われている薬です。また、免疫抑制剤としても使われます。

細胞毒性はどのように発揮されるのか

マスタードガス由来のシクロホスファミドは「アルキル化剤」という薬に分類されます。抗がん剤にも、さまざまな種類がありますが、アルキル化剤は、分裂中の細胞に対して強い毒性を発揮します。炭素と水素からできているアルキル基(原子の集まりの一種)が、分裂中の細胞のDNAにくっつき、コピー(複製)をじゃまします。その状態で細胞が分裂・増殖を続けると、DNAがちぎれて細胞は死んでしまうのです。

化学療法の設計は、使用する化学物質(薬)の性質によって決まってきます。体の中に薬を入れたら、その反応を外からコントロールすることはもうできません。好ましくない副作用を含めて、体内で起こるあらゆる反応を受け入れるしかないのです。それが症状として現れるのが、抗がん剤の副作用です。

さまざまな副作用を含めて、殺細胞剤にはいくつかの点で限界があります。主に、①分裂の遅い細胞(とくにがんの種となるがん幹細胞)を撃ちもらすこと、②正常な細胞を巻き添えにし、免疫にもダメージを与えること、③いずれ薬が効かなくなる薬剤耐性が現れることです。なかでも、NK細胞をはじめとする免疫細胞を殺し、免疫にダメージを与えてしまうのは、がんという病気の性質を考えるとき、大きな矛盾です。

そのように正常な細胞を巻き添えにしてしまうのは、がん細胞を狙い撃ちできる化学物質がないからなのです。バクテリアだけを殺してくれる抗生物質のように、がんだけを叩ける都合のよい化学物質が存在すればよいのですが、そういう物質は今のところ見つかっていません。

がん細胞だけを見分けて殺すことができるのは、腫瘍免疫の主役である、生きたNK細胞だけです。それも、がんを発症する以前のように活性の高いものに限られます。免疫の病気であるがんを根本的に治そうと思ったら、低下しているNK細胞の活性を高める必要があるのです。異常な免疫抑制という壁があるので、なかなかうまくいきませんが、免疫系治療というのは、突き詰めれば、そのNK細胞にはたらきかける根本治療です。そこが、同じ全身療法でも抗がん剤とはまったくしくみが違うところです。

誤解のないように付け加えておきますが、現在のがん治療体系のなかで、化学療法、殺細胞剤には大きなメリットがあり、その役割は決して小さくありません。一部の専門家のように、殺細胞剤の価値を否定するつもりは私にはありません。ただ、その作用には限界があることを理解していただきたいのです。

殺細胞剤は免疫にもダメージを与える

殺細胞剤には、免疫への影響から見ても、極めて不都合な特徴があります。それは、NK細胞をはじめとする免疫細胞を巻き添えにしてしまうことです。「抗がん剤の最大の副作用は骨髄抑制」といわれます。それは、殺細胞剤を打つと造血機能がやられ、白血球(すなわち免疫細胞)などが激減することを意味しています。骨髄が赤血球を作れないため貧血になり、白血球が作れないため免疫力が落ちる。それが骨髄抑制の恐ろしさです。

もちろん、血中の白血球数の激減には、血液やリンパ液の中にいたNK細胞などの免疫細胞が、殺細胞剤の巻き添えになって大量に死ぬことも関係しています。実は、免疫細胞も分裂が速く、最も殺細胞剤の犠牲になりやすい細胞の仲間なのです。

治療後に生き残っている免疫細胞も、傷だらけになって、大きなダメージを受けています。ここで考えておかなければならないのは、白血球の数が、そのまま腫瘍免疫の力を示しているわけではないことです。

「NK細胞の数×その活性」これが、がんに対する免疫の力を決めます。

しかし、殺細胞剤による治療後、徐々に増えてくる白血球のうち数が多いのは、好中球などで、感染症に対する抵抗力は回復します。ところが、腫瘍免疫を抑制する制御性T細胞などが優勢になり、結果的に腫瘍免疫はむしろ制御され、なかなか元に戻りません。このことは、がん治療の過程で普通に行なわれる血液検査では、ほとんど問題にされていません。けっきょく、継続的な殺細胞剤による治療は、がんに有利な環境を作ることに寄与していることになるのです。

いずれは耐性が現れ、薬が効かなくなる

殺細胞剤には、もう1つの問題もあります。いったん薬が効いて、がんの増大が抑えられたり、幸いにして縮小が見られたりしていても、いずれその治療に「耐性」を得るがんが出現することです。がんが治療に耐性を得るというのは、使っている薬などが効かなくなることです。薬の場合は「薬剤耐性」といいますが、放射線治療などでも、がんが治療に耐性を得る現象は現れます。

そうなると、がんの根治はとても難しいことになります。薬剤耐性が出たら、一般にほかの薬に切り替えたりして治療を続けるのですが、その治療にも、いずれ耐性が現れるようになります。

化学療法には、ファーストライン、セカンドライン......と薬の候補が準備されています。初めに使うのがファーストラインの薬です。セカンドラインが控えているのは「次に使える薬がありますよ」という意味です。

しかし、当然ながら、そのがんにいちばんよく効く薬をファーストラインで使いますから、控えの薬は、それより効かないと思ったほうがよいでしょう。実際に、セカンドラインの治療では、薬剤耐性がファーストラインより早く出てきます。基本的に、殺細胞剤では、がんを根絶できないのです。先ほど、がん幹細胞に触れました。増殖速度が極めて遅い、がんの芽です。

化学療法は、このがんの芽を撃ちもらしてしまいますし、かえって強く刺激して、「眠った子を起こす」ような結果になっていくように思われます。

化学療法とがん幹細胞

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