ウェルネスコラム「がんを殺すのは「NK細胞」」

ウェルネスコラム

書籍連載

【第1章】かぜもがんも原因は「免疫力」
がんを殺すのは「NK細胞」

T細胞―さまざまな働きを持つ免疫細胞

さて、いよいよ「がんに対する免疫」の話に移りましょう。免疫にとってがんが厄介なのは、がん細胞が、もともと自分の細胞であるということです。したがって、先ほど出てきた感染症に対する免疫のしくみは、がんに関しては当てはまりません。まして、自己免疫疾患という免疫の異常が、都合よくがんを狙い撃ちするわけもありません。

がんと診断されたらANK免疫細胞療法

がんと診断されたら
ANK免疫細胞療法

がんに対する免疫(腫瘍免疫)では、1975年に発見された前述のNK細胞がいちばん重要です。この免疫細胞こそ、活性が高ければ正常細胞とがん細胞を見分け、がん細胞だけを追い詰めていく「がん退治の主役」なのです。

ということは、樹状細胞、T細胞、B細胞は、腫瘍免疫の主役ではないということです。

白血球の仲間であるB細胞、T細胞(そのなかにヘルパーT細胞やキラーT細胞などの種類がある)、樹状細胞などは、免疫システムで重要な役割を果たしていることから、「免疫細胞」と呼ばれます。これら免疫細胞の研究は、電子顕微鏡などの研究環境が整った20世紀の後半から、急激に進み始めました。今から半世紀近く前の時代です。

1970年に、まず、T細胞が本格的に研究されるようになりました。T細胞というのは、全体でみると実に幅広いはたらきを持つ免疫細胞のグループです。ただし、1個ずつのT細胞のはたらきは単純で、あらかじめ胸腺(胸の真ん中にあるリンパ組織の一種)で教育されるときに決まります。

先ほど述べたように、ウイルス感染細胞を破壊するのがキラーT細胞です。ほかの免疫細胞(キラーT細胞やB細胞)に情報を伝えて活性化するのが、ヘルパーT細胞です。逆に免疫系にブレーキをかけることもあり、その場合はサプレッサーT細胞と呼ばれます。

がんに対する免疫① T細胞にごく一部含まれるCTL

キラーT細胞は、T細胞全体のごく一部なのですが、よく「学習した敵だけを攻撃する」と説明されます。実は、ある特定のウイルスの感染に対応するキラーT細胞には、ほかのウイルスと戦う能力がそもそも備わっていないのです。

そして、担当のウイルスに感染したときだけ、自分の出番だとばかり猛烈に増殖します。顕微鏡でそれを見ていると、「たくさんのT細胞が、そのウイルスを学習して攻撃するようになった」という現象に見えるわけです。

腫瘍免疫の担い手として、まず注目されたのが、このキラーT細胞でした。それまでの研究で、その一部が特定のがん細胞を認識し、攻撃することがわかっていたからです。ただし、がん細胞は実にずるがしこい生き物なので、頻繁に性質を変えて、免疫の網の目をくぐろうとします。がんが少し姿を変えるだけで、キラーT細胞はすぐに攻撃をやめてしまいます。がん細胞の性質が変わると認識・攻撃できなくなる。それがキラーT細胞の限界であることがはっきりしています。

キラーT細胞は、現在ではCTLと呼ばれることが多くなっています。「細胞傷害性T細胞」という意味です。本書では、このあと、特定のがんを攻撃するキラーT細胞だけを、CTLと呼んで区別していくことにします。

NK細胞とCTLの解説図

がんに対する免疫② 生まれながらの殺し屋

1973年、今度は樹状細胞の本格的な研究が始まります。2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞したスタインマン博士らが、その形状から「樹状細胞」と名づけたのもこのころです。この細胞も、腫瘍免疫におけるはたらきを期待されていたのですが、研究の結果、主に感染症防御の司令塔としてはたらいていることがわかりました。

そうして多くの研究者が免疫細胞の探究を続けるなか、1975年がやってきます。

この大発見の伏線として、片っ端から集めてきた健康な人の血液にがん細胞を混ぜると、がんの種類を問わず、数日でがん細胞が消えてしまうという現象が確認されていました。つまり、その血液の中には、がんを殺す「何か」がいるわけです。それこそが、がんに対する免疫を担う免疫細胞ではないかと、研究者たちはにらんでいました。

果たして、その細胞が、NIHをはじめとする世界の3つの研究グループで、ほぼ同時に特定されたのです。それこそが、現在、腫瘍免疫の研究者であれば知らない人のいないNK細胞です。

がんに対する免疫の解説図

NK細胞は、血液中に混入されたがん細胞が、どんな種類であってもすべて殺し尽くしてしまうことがわかっていました。つまり、CTLと違って、がんに対してオールマイティーなのです。

ただし、それは、元気な人の体内にいる「活性が高いNK細胞」の場合です。活性が高いときには、どのような種類のがん細胞と出会っても、必ずがんと見分け、たちどころに攻撃する。それがNK細胞の特徴なのです。

ちなみに、1975年にNK細胞を発見したのは、米国NIHのロナルド・ハーバーマン博士と、当時NIHにいた日本の仙道富士郎博士、そしてスウェーデンのカロリンスカ研究所に所属するロルフ・キースリング博士たちでした。

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